きょうは、自然に親しむ祝日「みどりの日」だ。国民がその恩恵に感謝し、豊かな心をはぐくむという趣旨で設けられた。日本国内、そして地球全体の環境保全について考える日としてもふさわしいだろう。
近年、自然環境や人への悪影響が懸念され、各国で使用の禁止や規制が進んでいる化学物質がある。有機フッ素化合物である。少なくとも4700以上の種類があり「PFAS(ピーファス)」と総称される。
分解されにくく、長期間残留するため「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」とも言われる。国内でも河川や井戸水から高濃度で検出されている。体内に蓄積し、有害性が指摘されることから、汚染があった地域では不安の声が上がる。このPFASに目を向けてみたい。
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PFASは1940年代から普及した。水や油をはじき、熱に強い性質があり、調理器具のフッ素樹脂加工や食品の包装、繊維の表面処理などに世界中で広く使われてきた。
ジャーナリストのジョン・ミッチェル氏によると、PFASは1938年に米国の研究所で偶然発見された。この物質を使って軍民で開発した泡消火剤は基地や民間空港、駐車場などに配置された。利便性の高い素材だったのは間違いない。
ところが便利さの裏に危険が潜んでいた。50年代から動物実験でその毒性が疑われ、今世紀になって、人体に入ると腎臓などのがん、高コレステロール、出生時低体重などのリスクが高まる恐れがあるとの研究結果が公表された。ただ、人体への影響は十分に分かっていない。
濃度が高い基地周辺
PFASのうち代表的なPFOSやPFOAなどは、有害化学物質を規制するストックホルム条約で製造や使用が原則禁止された。日本でも2021年までに、この2物質の製造、輸入などが原則禁止になった。とはいえ環境に出てしまったPFASはそのまま残存している。
国内で汚染が目立つ地域の一つが沖縄県だ。15年に浄水場でPFOSとPFOAが検出され、米軍嘉手納基地や普天間飛行場周辺の河川・地下水で高い濃度が続いている。原因として基地内の泡消火剤が疑われている。嘉手納基地周辺は飲料水の水源であり、事態は深刻である。
東京都の米軍横田基地に近い多摩地区でも、PFASの汚染で一部浄水施設の取水を停止している。市民団体が今年、血中濃度の高い人がいたとの調査結果を発表した。住民らは汚染源の特定を求めている。
問題なのは、沖縄県などが求める米軍基地への立ち入り調査が容易に実現しないことである。汚染源がはっきりしなければ対策も進まない。米側は住民の不安を重く受け止め、積極的に調査に協力すべきだ。
危機感強い欧米各国
高濃度のPFASが検出されているのは沖縄や東京だけではない。
日本では20年、水道などの暫定目標値をPFOSとPFOA合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)と定められた。環境省によると、河川や地下水、海域などの21年度調査で、兵庫県を含む13都府県の81地点で国の暫定目標値を超えた。多くは飲料用ではないとしたが、自治体や井戸の所有者に注意を促した。
専門家は工場や空港、廃棄物処理施設などを発生源に挙げる。基地と合わせ、実態の解明が待たれる。
問題の広がりを受け、厚生労働省と環境省は1月、暫定目標値見直しの検討を始めた。内閣府の食品安全委員会も健康影響調査を進める。
しかし日本政府の対応は鈍いと言わざるを得ない。欧米各国の危機感は格段に強い。米国は3月、これまで飲み水1リットル当たり合計70ナノグラムだったPFOSとPFOAの勧告値について、それぞれの基準を4ナノグラムに厳格化すると発表した。欧州連合(EU)も規制の強化を議論する。
健康への影響などが未解明だからといって、PFASの規制強化をちゅうちょしてはならない。政府は対応を急ぐとともに、汚染実態の本格的な調査を進めてもらいたい。








