防衛費の大幅な増額に必要な財源を確保する特別措置法案が衆院を通過し、きのう参院での審議が始まった。今国会での成立を目指す与党に対し、野党は徹底抗戦の構えだ。
岸田文雄首相は昨年末、防衛力の抜本的強化のため、2023年度から5年間で総額約43兆円を投じる方針を決めた。過去5年と比べ約17兆円の増加となる。首相は「内容、予算、財源を一体で議論する」とするが「規模ありき」の感が否めない。財源確保策や使途について、国民の納得がいく説明を尽くすべきだ。
政府は財源確保策として、税外収入や決算剰余金、歳出の見直しで5年間に11兆円強を捻出し、残りは増税で賄う方針を示している。
法案は、国有資産の売却などによる税外収入を積み立てる「防衛力強化資金」の新設が柱となる。23年度予算で確保した約4・6兆円を5年分の防衛費に充てる措置を盛り込んだが、それ以降は不透明だ。歳出改革も具体的な中身が示されておらず、安定財源には程遠い。
唯一、安定税源となり得るのが1兆円強を見込む増税である。政府、与党は昨年末に法人、所得、たばこの3税を増税する方針を示した。ただ実施時期は決まっていない。国民の反発を恐れる与党内の異論もあり、法案には盛り込まれなかった。
増税では、所得税に1%上乗せする。その分、東日本大震災の復興財源である特別所得税の税率を1%引き下げ、総額確保へ課税期間を延ばす。復興への影響を懸念する被災地の理解は得られないだろう。
首相は昨年末、「未来への責任」として増税方針を掲げた。ならば、税負担の必要性を法案に明記し、国民に判断を求めるのが筋だ。共同通信が実施した世論調査では、防衛力を巡る首相の説明は「十分ではない」との回答が88%に達した。
決算剰余金の活用について、野党は「予備費の使い残しを当て込んでいる」と批判を強める。政府の裁量で使える予備費は国債頼みで、新型コロナウイルス禍では膨張を続ける。これを縮小しないまま、防衛費に充当すればさらなる国債発行につながり、将来に禍根を残しかねない。戦前の日本が国債を大量発行して戦費を調達し、悲惨な戦禍を招いた教訓をおろそかにしてはならない。
43兆円の使途には、米国製巡航ミサイル「トマホーク」など、政府が保有を決めた反撃能力(敵基地攻撃能力)のための費用も含まれる。防衛費の急増は、憲法9条に基づく専守防衛を形骸化させる。
国力や財政事情に見合った防衛力をどのように整備するのか。参院審議では、与野党に改めて地に足の着いた議論を求める。
