神戸連続児童殺傷事件など重大少年事件の記録廃棄問題で、最高裁は調査報告書を公表した。小野寺真也総務局長は「最高裁による不適切な対応に起因する」と責任を認め、「後世に引き継ぐべき記録を多数失わせたことについて深く反省し、国民の皆さまにおわびする」と謝罪した。
最高裁は1992年、社会の耳目を集めた事件や、史料的価値が高い事件の記録を「特別(永久)保存」とするよう通達した。にもかかわらず、神戸事件など歴史的、社会的にも意義がある「国民の財産」が多数廃棄された結果は極めて重大だ。
小野寺総務局長は「職員や組織に記録を後世に残すという意識がもともとない」と述べた。異例の「自己批判」と言えるが、反省を形だけに終わらせてはならない。実効性を確保した保存制度や運用の見直しなど改善策につなげ、失墜した信頼の回復に全力を挙げる必要がある。
昨年10月に神戸事件の全記録廃棄が発覚した当初、最高裁は経緯の調査に消極的だったが、批判を受けて有識者委員会を発足させた。少年事件52件を含む104件の裁判について調べた結果、神戸など多くの事件で、家裁所長が永久保存を判断すべき立場にあることを認識していなかった。実際に検討されたのは神戸など4件のみで、それ以外は職員が漫然と廃棄していた。こうした現場任せの構図も報告書は指摘した。
驚くのは、最高裁が記録の保管場所の不足を懸念し、永久保存記録の膨大化防止を求めていた事実だ。裁判所を指導すべき最高裁が記録を「残す」意識に欠けていたのなら、廃棄が常態化するのは当然だろう。
1997年に兵庫県稲美町で起きた高1男子生徒集団暴行死事件で、長男を失った高松由美子さんは「息子を二度殺された思いがする」と憤り、嘆いた。裁判所の関係者は、この言葉を重く受け止めるべきだ。
最高裁は永久保存の在り方について、国民の意見や専門家の知見を取り入れるため、常設の第三者委員会を設置するという。再発防止には事件の被害者や遺族らの声を反映させる仕組みが欠かせない。
裁判記録は一度廃棄されてしまうと取り返しがつかない。「国民の共有財産」という前提で、まずは広く保存されるべきである。
少年事件では被害者や遺族にも事件記録は一部しか開示されない。当事者が「真相を知りたい」と願っても、かなわない状況が続く。
最高裁は事件の種類を問わず、国立公文書館への記録の移管を検討するという。少年事件ではプライバシーに配慮する必要はあるが、記録の活用についても、公開方法などを含め幅広く議論してもらいたい。








