ウクライナ南部のヘルソン州で、ロシア軍が占拠するカホフカ水力発電所の巨大ダムが決壊し、洪水が発生した。約60キロ離れた州都ヘルソンで一部地域が浸水するなど、数万人が被災したとされる。ロシアの支配地域でも多数の犠牲者が出る恐れがあり、食糧や飲料水が不足し、衛生状態の悪化も深刻だ。
ダム決壊は、ウクライナ軍がロシアへの大規模な反転攻勢に着手したとの見方が広がる中で起きた。決壊の原因ははっきりしないが、両国ともに相手側による攻撃だと非難している。
国連安全保障理事会は緊急公開会合を開いた。だが、ウクライナ侵攻が根本的な原因としてロシアの責任を追及する欧米と、ウクライナの関与を主張するロシアなどによる非難の応酬に終始した。
侵攻がこの事態をもたらしたのは明らかだ。巻き添えで犠牲になったのは一般市民である。国際社会は結束して、被害拡大を防ぐ対策を講じるとともに、食糧や避難場所の確保など人道支援活動を急ぎたい。被災者支援には、一刻も早い停戦とロシア軍の撤退は不可欠である。
ロシア軍が占拠する、欧州最大のザポロジエ原発への影響も危惧される。同原発の冷却水用の貯水池は、このダムから取水している。国際原子力機関(IAEA)は、代替水源に数カ月分の貯水量があり「短期的には問題はない」とするが、最悪の事態に至らぬよう、危機回避に向けた監視と保護が急務だ。
ダムへの攻撃は国際人道法に違反する。看過できない戦争犯罪である。決壊の真相究明と責任の追及に向けては、中立的な国も参加する国際調査委員会の設置が求められる。
ロシアによるウクライナ侵攻では、病院や学校、劇場など民間施設への攻撃や、非戦闘員の虐殺、子どもの連れ去りなどの戦争犯罪も繰り返されてきた。これ以上、国際秩序を破壊する行為は断じて許されない。
ダム決壊によって流域のかんがいシステムの水が止まり、世界有数の規模を誇る農業への悪影響も懸念される。多くの人命が失われないよう、ロシアは直ちに侵攻をやめるべきだ。関係各国も一層の外交的な努力を重ね、撤退を迫らねばならない。
