1979年に鹿児島県大崎町で男性の遺体が見つかった「大崎事件」の第4次再審請求即時抗告審で、福岡高裁宮崎支部は、殺人罪などで懲役10年が確定、服役を終えた原口アヤ子さんの裁判のやり直し(再審)を認めない決定をした。元夫(故人)の再審も認めなかった。
大崎事件では、これまで地裁と高裁支部が再審開始を計3度決定している。いずれも上級審で覆ったが、事件への関与を示す直接的な証拠がない中、有罪の証明に疑義が生じているのは確かだ。なぜ再審を認めないのか、釈然としない。
確定判決によると、79年10月12日夜、原口さんの義弟だった男性が酒に酔い溝に転落。近隣住民2人が送り届けた。生活態度に不満を募らせた原口さんが元夫らと共謀し、首をタオルで絞め殺害、翌日未明に遺体を牛小屋に遺棄したと認定した。
今回の即時抗告審は、事故死とする弁護側主張が認められるかどうかが争点だった。高裁支部は弁護側が提出した救急救命医の鑑定について証明力を完全には否定しない一方、共犯とされた複数の親族の自白などで確定判決は揺るがないとした。
親族にはいずれも知的障害などがあり、捜査側の誘導に乗りやすい「供述弱者」だったと指摘されている。即時抗告審で、弁護側は目撃者の供述の不自然さも指摘したが、高裁支部は「他の証拠と補完し合っている」として退けた。
にもかかわらず、新旧証拠を総合的に評価し直すことは拒んだ。矛盾に満ちた裁定と言わざるを得ない。
裁判所のかたくなな態度は、2019年の第3次再審請求での最高裁決定が影響したと専門家は指摘する。地裁、高裁の再審開始決定を取り消し、証拠の総合評価も拒んだ。1975年の白鳥決定で示された「疑わしきは被告人の利益に」という原則を忘れたのだろうか。被告の利益より司法の体面を重んじた判断を、高裁支部も踏襲したように思えてならない。
弁護側は決定を不服として最高裁に特別抗告した。最高裁は新旧の証拠をつぶさに評価し直し、最上級審の良識を示さなければならない。
逮捕後、一貫して無実を訴えてきた原口さんは、あす96歳の誕生日を迎える。66年に静岡県で起きた袴田事件などと同様、今回の再審請求も長い年月を要しているが、まだ再審の入り口にもたどりついていない。
長期化の要因は、検察側に抗告を認めている点にある。これでは再審本来の目的である冤罪(えんざい)の救済まで時間がかかりすぎる。運用が恣意(しい)的との批判がある検察側の証拠開示のルールも含め、再審制度の見直しを検討すべきだ。
