岐阜市の陸上自衛隊射撃場で男性隊員3人が自動小銃で撃たれ、2人が死亡し、1人が重傷を負った。発砲したのは自衛官候補生の18歳の男で、その場で取り押さえられた。国民を守るための武器で、隊員の命が奪われたのは由々しき事態だ。
陸自トップの森下泰臣(やすのり)陸上幕僚長は会見で「武器を扱う組織としてあってはならない。非常に重く受け止める」と謝罪し、調査委員会を設置した。動機を明らかにし、再発防止につなげなければならない。
男は今年4月に第35普通科連隊新隊員教育隊に入隊した。射撃を含む基礎的な訓練を6月末で修了し、部隊に配属される予定だった。
岐阜県警などの調べに対し、男は死亡した52歳の隊員に叱られたという趣旨の供述をしているという。一方で、森下幕僚長は死傷した3人について、新隊員教育隊で勤務していたものの、男を直接、指導する立場にはなかったと明らかにした。
男と隊員の間に何があったのか、解明が待たれる。殺傷能力の高い武器を使うに足る適性があったかも詳しく調べるべきだ。
自衛隊では近年、ハラスメントなどの不祥事が相次ぎ、閉鎖的な体質との関連が指摘されてきた。
パワハラが原因とされる自殺が相次ぎ、元自衛官の女性が在職中に性暴力を受けた問題では、組織的な隠蔽(いんぺい)が明らかになった。今回の事件とハラスメントとの関連は不明だが、教育内容の検証も欠かせない。
射撃訓練の安全管理の在り方も問われている。
通常の手順では、訓練中の隊員は指示に従って弾を弾倉に詰め、「射座」と呼ばれる射撃位置に移動した後、小銃に装〓(U+5861)(そうてん)すると規則で定められている。
しかし、男は射座に着く前に装〓(U+5861)し、制止しようとした隊員を撃ったとされる。銃口は常に、上方か的に向けるよう指導されており、今回のような事態は「規則通りに訓練が行われていればあり得ない」との指摘も陸自幹部から上がっている。
銃撃された3人は、防弾チョッキを着けていなかったという。射撃場で故意に人を撃つことは想定しにくいとはいえ、暴発などの危険性もある。訓練の際の安全確保も再検討する必要がある。
政府は防衛費増額に向けた特別措置法を今国会で成立させた。今後5年間で総額約43兆円を投じるが、防衛力を高めるには装備の増強だけでなく、人材育成や安全対策の強化も欠かせない。
今回の事件の調査や捜査をきっかけに、教育訓練の機能や組織全体の規範意識を高め、信頼の回復を目指さなければならない。
