社説

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 「平時」とは、そもそもいつを指すのか。政府は当面の経済財政運営の指針となる「骨太の方針」を閣議決定し、新型コロナウイルス感染症対策で膨れ上がった歳出構造を「平時に戻していく」と明示した。

 コロナ関連の基金や交付金が次々と設けられ、国の予算は2019年度から5年連続で100兆円を超えた。大半を賄うのは赤字国債(借金)であり、国債の発行残高は1千兆円の大台に乗った。感染法上の位置付けが「5類」に移行し、社会活動も通常に戻りつつある中で、関連予算の見直しは当然といえる。

 しかし社会保障費の増加などで、毎年の予算支出と税収の差は1990年代から開く一方だ。コロナ禍のずっと以前から、日本は財政難にある。単に「平時」に戻すだけでは財政健全化には程遠い現状を、政府は直視する必要がある。

 今回の方針には、防衛予算の大幅増や少子化対策といった多額の歳出を伴う政策が盛り込まれた。しかし実現の裏付けとなる財源を明確に示しておらず、本気度が疑われる。

 防衛財源では、当初「2024年以降」としていた増税時期を「25年以降」に先送りした。少子化対策では児童手当の拡充など年間3兆円台半ばの追加予算を投じるとしながら、岸田文雄首相は「(国民の)追加負担は生じさせない」と強調する。

 財源とセットで論じない政策をいくら示されても「絵に描いた餅」になりかねない。解散・総選挙を視野に、負担増の議論を避けようとする思惑を、有権者は見透かしている。

 政府は財政健全化について、社会保障などの政策経費を税収と税外収入で賄えているかを示す「基礎的財政収支」を25年度に黒字化する目標を掲げていた。「骨太」では目標を維持するとしつつ、実現可能性などを24年度に検証するとした。

 事実上の先送りであり、危機的財政を立て直そうという決意は伝わってこない。高成長を実現して税収が増えたとしても25年度は赤字になると、内閣府が試算している。直ちに検証を始め、24年度予算編成からその結果を反映させるべきだ。

 財政悪化は税収の少なさも一因とされる。2度の税率引き上げで消費税収は伸びる一方、法人税や所得税は税率引き下げが繰り返された。首相は自民党総裁選で金融所得課税の見直しを掲げたが、分配重視や格差是正は一段と後退した。

 少子高齢化の加速に伴う保険料負担の上昇を抑えるため、医療、介護制度の改革も明記したが、効果は未知数だ。一時しのぎの対策ではなく、人口構成や生活環境の変化を見据え、社会全体で新しい負担のあり方を探る姿勢を示さねばならない。

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