1968年に起きた食品公害「カネミ油症」を巡り、全国油症治療研究班(事務局・九州大医学部)が、認定患者の子や孫を対象にした調査で、先天性疾患の一つである口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)の発生率が高い傾向にあることが分かったと報告した。
この調査では昨年2月の中間報告で、頭痛、倦怠(けんたい)感、肌の不調を訴えた人がそれぞれ約4割に上ったとのデータが明らかにされている。今回の発表で、身体的な症状が子孫に及ぶ問題がさらにはっきりした。重大で深刻な健康被害である。
研究班の報告を受け、厚生労働省は「集まったデータ次第では、(認定基準の)改定に必要な有識者会議を開く可能性も出てくる」との認識を示した。しかし他の疾患も調べる必要があるとして、認定基準の改定には慎重な姿勢を崩していない。
認定患者の子や孫の多くは、油症特有の症状があっても患者認定されないケースが目立つ。国は次世代の被害救済を優先し、基準の見直しに向けた検討を急ぐべきだ。
カネミ油症は、カネミ倉庫(北九州市)製の食用米ぬか油を口にした人たちに、皮膚や内臓の疾患、手足の痛みなどをもたらした公害だ。米ぬか油に混入したポリ塩化ビフェニール(PCB)と、そこに熱が加わって生成したダイオキシン類による複合中毒とされる。PCBは鐘淵化学工業(現カネカ)の高砂工業所で製造されたものだった。
被害は西日本一帯に広がり、約1万4千人が被害を届け出たが、2022年末までの患者認定数は2367人にとどまる。被害者救済法が施行されたのは12年で、発生から40年以上が過ぎていた。同法を基に国とカネミ倉庫、患者団体による「3者協議」が始まったのは13年からだ。
カネカに損害賠償を求めた訴訟では1987年に和解が成立したものの、患者団体側は、近年ようやくできた救済の枠組みに同社も加わるよう求めている。同社は「和解金も負担した」などと拒んでいるが、製造者としての責任を自覚し、話し合いの席についてもらいたい。
カネミ油症では、胎盤などを通じて子どもにダイオキシン類などが影響した可能性があるとされる。認定基準の一つには血中のダイオキシン濃度が採用されている。ただ、油を直接摂取した世代に比べると、症状が出ていても次世代はこの濃度が低いという。救済を進めるにはさらなる調査と研究が欠かせない。
次世代にも健康被害が及ぶ構図は、有機水銀中毒症である水俣病などとも共通する。差別や偏見が起きないよう最大限配慮しつつ、国の責務として被害の全容を明らかにし全面解決につなげねばならない。
