エネルギーと環境の視点で、地域や経営の課題解決や新しいデザインを考える第2回「地エネと環境の地域デザイン協議会」が神戸市内で開かれた。森林のエネルギー利用に詳しい株式会社バイオマスアグリゲーションの久木裕さんが講演。北摂の里山地域循環共生圏の分科会報告や担い手の乏しい都市近郊林利用の提案などもあり、企業や自治体、研究機関の約50人が参加し、交流を深めた。
自立型社会へ転換を

株式会社
バイオマスアグリゲーション
久木 裕さん
株式会社バイオマスアグリゲーション 久木 裕さん講演
森林エネルギー活用テーマ
久木さんは、輸入する石油や石炭を使うことで日本国内から年間20~25兆円が海外に流出し続けているエネルギーコストの問題を指摘した。
また、地球温暖化対策のパリ協定によって化石燃料の使用が厳しく制限される時代が到来することを解説。地域経済や危機管理の観点から、地域資源を生かした自然エネルギーへの「エネルギーシフト」を進める必要性を強調した。
導入しやすい小規模な森林資源利用の実例として、飛騨高山しぶきの湯バイオマス発電所(岐阜県)などを紹介した。同所では木の燃料を燃やす際に得られる熱の供給によって温浴施設での灯油使用を年間約700万円分削減し、年間発電量は約126万キロワットになるという。

熱利用が事業成功の鍵
久木さんは、電気よりも熱利用を中心に考えることを事業成功のポイントに挙げた。さらに、公共の温浴施設が地域エネルギー会社から熱を購入して初期の事業リスクを減らす仕組みなどを提案した。
先進地の欧州では、木質チップの販売や熱供給サービスを担う「エネルギー農家」が増え、地域の過疎対策と経済振興に効果を上げていることを説明した。
久木さんは、森林国の日本では地域資源である樹木を自ら生かすバイオマス事業が、自立心と地域課題の自己解決能力を高めると指摘。「外部資源に依存する社会から自立型社会へ転換を」と呼び掛けた。

分科会報告

IGES関西研究センター
前田利蔵さん
自然エネを圏域の魅力に
北摂里山地域循環共生圏
「北摂里山地域循環共生圏」をテーマとした分科会について、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)関西研究センター(神戸市)の前田利蔵さんが活動を報告した。
同共生圏は、宝塚市、川西市、猪名川町などで自然エネルギー利用を拡大して地域の魅力を高めながら都市からの交流人口を増やし、食とエネルギー、人、資金が循環する圏域の形成を目指している。
前田さんは、農業と発電を両立するソーラーシェアリングを増やす宝塚すみれ発電や、薪(まき)・ペレットストーブの設置を支援する猪名川町の取り組みを紹介。自動運転社会の実現に向けて、高齢者などの「交通弱者」向けの次世代型移動サービスの導入をトヨタ自動車などと目指す川西市の試みなども取り上げた。

正垣木材株式会社
岡村勝弘さん
木質燃料の備蓄網が必要
都市近郊林の有効活用
広葉樹製品やバイオマス発電向け燃料を製造販売する正垣木材株式会社(養父市)の岡村勝弘さんは、都市近郊林の資源活用について提案した。
岡村さんは、兵庫県内に神戸市北区や東播磨、阪神北部など、樹木を伐採・利用する担い手が乏しい地域があることに着目。建築材向けに植えられたスギやヒノキの人工林が少ないことから、木質燃料としての商品化を中心に活用することを提案した。
性能向上が著しい薪やチップのストーブやボイラーが、災害時には温水、暖房、炊飯、煮沸消毒に手軽に活用できることを紹介。自治体の農林、防災、環境部局が連携して、伐採利用と燃料備蓄のネットワークを地域につくっていくべきと訴えた。

NPO法人
都市型農業を考える会
中西重喜さん
有機肥料として利用研究
酒米を消化液で栽培
NPO法人都市型農業を考える会(神戸市北区)の中西重喜さんは、農業の廃棄物などを発酵させてバイオガスを作る際に得られる消化液を酒米栽培に生かす取り組みを発表した。
同会は、弓削牧場(同)の乳牛のふん尿などを原料としたバイオガスの熱や電気利用を進めている。同時に、消化液をさまざまな農作物の栽培に使い、有機肥料としての利用法を研究している。
中西さんは、昨年6月からの酒米・山田錦への栽培の経過を紹介。適切な肥料の量や、田んぼへの消化液の流し込み方などの検討課題について話した。
各地イベントで自然エネ活用PR
神院大「防災女子」協力 もみ殻燃料の活用実演

地エネと環境の地域デザイン協議会は兵庫各地のイベントに参加し、災害時にも役立つ身近な自然エネルギーの活用法などを提案した。
神戸市中央区の東遊園地で開かれた食都神戸デーでは、無煙炭化器による街路樹剪定(せんてい)枝の炭作りを実演。できた炭で焼き芋を作りながら、費用をかけてごみとして処分されている枝を炊き出しなどにも活用できることを訪れた市民に説明した。
同市西区の神戸ワイナリーで開催された「こうべ 地域のたべもの祭り」では、神戸学院大「防災女子」の学生とともに、もみ殻燃料と非常時に役立つ調理法をアピール。もみ殻を粉砕して熱で固めた燃料を使って薪(まき)ストーブでお湯を沸かし、ポリ袋に入れたご飯を温めて会場でふるまった。
明石市の明石公園で催された兵庫県民農林漁業祭では、身の周りにある地エネに目を向け、地域づくりや防災に生かす取り組みを紹介した。