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神戸地裁=神戸市中央区橘通2
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神戸地裁=神戸市中央区橘通2

 昨年5月、神戸市西区のニュータウンの路上に止めた乗用車内で81歳の妻を刺殺したとして、殺人罪などに問われた被告の男(80)に対する裁判員裁判の被告人質問が13日、神戸地裁であった。男は法廷で、病気だった妻の介護に疲れ、包丁で刺すまでの経緯を主張した。妻を殺し、自分が生き残ったことを裁判長に問われ、「ひきょうなことをした。あかんたれな夫や」と声を震わせる場面もあった。

 白髪の頭に眼鏡を掛けた被告の男は、今月11日の初公判から変わらず、緑のセーターに黒のズボン姿で出廷。おぼつかない足取りで証言席へ向かう様子に、「体調がしんどくなりそうなら早めに言ってください」と裁判長が気遣った。

 裁判では、検察側も弁護側も男が妻の介護に疲れていた点は一致して認めている。ただし、被告と弁護側は「(殺害には)妻の同意があった」として、承諾殺人罪の適用を主張。これに対し、検察側は妻にそのような言動があったとしても、「真意としての同意はない」と否定している。

 真実はどうだったのか。妻が殺害され、説明できるのは夫の男しかいない。

     ◇

 「私の介護の苦しみと、妻の痛みを取り除くには心中しかないと思い込んでしまった」。弁護側の動機を尋ねる質問に、男はしわがれた声で答えた。

 そして、事件当日の夜を思い返したように説明を始めた。被告の男が法廷で語った事件のいきさつは次の通りだ。

 妻は体の痛みを訴え、薬が効かずに苦しんでいたという。「救急車を呼んで」「救急外来に連れていって」と求めてきた。救急外来は2日前にも訪れたばかり。聞く耳を持たない妻に、男はこう言ったと供述した。

 「あっちこっち病院行って薬を飲んでも、痛みなくならへんのやったら、死ななしょうないな」。すると妻は間を空けずに、「あんたが一緒に死んでくれるんやったら私も死ぬ」と答えた。男は裁判官や裁判員に向けてそう語った。

 妻がトイレへ行く間に台所の包丁を1本手に取り、手提げ袋へ入れたという。夜に2人で車に乗って向かったのは、元気なころに散歩していた近くの公園だったらしい。路上に停車し、シートベルトを外した。

 「ここよく来てた公園やで」。声を掛け、左手で助手席に座った妻の右手を握る。そして、右手で包丁を取り出し、何も言わずに刺したという。妻は「痛い!」と大きな声を出した後「お父さん、あんたも死んでよ」と言ったと語った。「わしも死ぬからな、わしも死ぬからな…」。男は何度も同じ言葉を繰り返したと話し、複数回刺した。

 検察官は被告の男に問うた。「妻はこんな死に方を望んでいましたか」。男は声を詰まらせた。「1回刺せば死ぬと思っていた。ほんまにかわいそうなことをしてもうたなあ…。後悔ばっかりしています」

 男の供述を聞いた裁判官は、自宅から公園に移動する途中、2人に心中をする方法を確認する会話がなかったことや、妻の遺体の手に抵抗した傷があったことなどを指摘した。

 「なぜ妻が死ぬつもりだったと思えるのか。抵抗されたことは覚えていない?」。裁判官は強い口調で問いかけた。男は「必死で、覚えていません」と答えるだけだった。

 男は裁判では、妻を刺した後、自身も首を刺して死のうと考えていたと話した。「妻を見て、恐怖で、恐怖で…。力も尽き、自分を刺せなかった」と語った。

 最後に裁判長は「社会に出たら(妻の)後追いをしようという考えはないですか」と尋ねた。男は「事件で、子どもらにものすごく迷惑をかけた。もう迷惑をかけたくない。寿命をまっとうしたい」と述べた。

 裁判は14日、検察側の論告求刑や弁護側の最終弁論を行って結審し、20日に判決が言い渡される予定。

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