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車の中に置いていた母親宛ての手紙は焼失を免れた
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車の中に置いていた母親宛ての手紙は焼失を免れた

 2021年11月19日夜に兵庫県稲美町の民家で起きた放火事件で、犠牲になった小学6年松尾侑城君(12)と弟の小学1年眞輝君(7)の両親が、初めて取材に応じた。その成長が何よりの楽しみだった息子2人を突然失ってから、間もなく3カ月。募る無念さ、悲しみ、怒り、後悔-。気持ちの整理はつかず、ない交ぜのままでいる。(若林幹夫、千葉翔大)

 出火した午後11時半すぎ、父親(58)は仕事を終えた母親(49)を車で迎えに行く途中だった。翌日が休日だった侑城君と眞輝君は「起きていたい」と言い、一緒に行きたがっていたが、家を出る頃にはぐっすりと眠っていた。

 母親は、学校から帰ってきた眞輝君が「友達と遊んでくる」と家を出てから出勤。侑城君は朝、「行ってきます」と元気に登校する姿を見たのが最後となった。帰り支度を終えると、友人から「火事やで、燃えとるで」と携帯電話に連絡を受けた。日常が一変した。

     ◇

 父親は「夫婦ともに年を取ってからできた子ども。できるだけ思い出をつくろうと接してきた」と話す。キャンプに年3、4回行き、ボートを買って琵琶湖にも出掛けた。侑城君は誰にでも優しく、転校生にはいち早く声を掛ける一面があった。眞輝君は兄と毎日のようにキャッチボールをしたがった。

 兄弟は、近所でもよく知られた大の阪神タイガースファン。試合のテレビ中継はメガホンを持って選手の応援歌を歌いながら観戦した。昨シーズンはクライマックスシリーズのチケットが取れず、家族でファンクラブに入り、父親が「来年は行こうな」と約束すると喜んだ。眞輝君は広島カープの鈴木誠也選手も好きで、「甲子園に行くなら広島戦がいい」とねだった。

 一つずつ思い出を振り返りながら、父親は「楽しみがいっぱいあった」。母親も「甲子園に連れていってあげたかった」と話す。

 遺体は対面しないまま火葬した。父親は「記憶の中できれいな姿で残したかった。本当なら抱きかかえてあげたかった」と無念さを口にする。今も近くにいるような気持ちになり、つい「息子のところに行きたい」と口にしてしまう。気が付けば、一日に何度も涙がこぼれてしまう。

 2人の息子はよく、仕事から帰ってきた母親に向けて書き置きしていた。侑城君はしっかりとした字で「ママ大好き」、眞輝君は覚えたての平仮名で「おしごとがんばって」。似顔絵と一緒にメッセージをつづったメモ用紙の束は、車に残されていた。

     ◇

 事件から5日後。母親の兄で、侑城君、眞輝君の伯父に当たる松尾留与容疑者(51)が、現住建造物等放火容疑などで逮捕された。留与容疑者は一時は家を離れて大阪で暮らしていたが、3年前から再び同居するように。初めは息子たちも「おっちゃん、おっちゃん」と慕い、一緒に外食することもあったが、次第に距離が生まれ、自室にこもるようになった。

 両親は、留与容疑者に働くよう促すことや、支援の手だてを模索していたが、警察関係者から同居生活で募らせた不満が事件の動機だったと聞かされた。

 侑城君は母親を「ママ」から「おかん」と呼ぶようになり、声変わりも始まっていた。眞輝君はよく母親の膝の上に乗ってきた。2人には何の落ち度もない。かわいがったペットのパピヨン犬と三毛猫も死んだ。

 両親は今、稲美町を出て、県内の集合住宅に身を寄せる。父親は「(留与容疑者は)思っていることがあったら、何で直接言ってくれなかったのか。すごい悔しいし、残念だし、子どもに申し訳ない。怒りしかない」。言葉を絞り出した。

 

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