12日朝、神戸市灘区南部の市街地にシカが出没、猟友会が出動する騒動があった。同市によると、六甲山の南側にシカが現れるのは「把握する限り初めて」という。ニホンジカは農林業や自然植生に深刻な食害をもたらし、兵庫県北部から生息域が拡大傾向にある。同市は六甲山への進入を防ごうと、山の北側に自動撮影カメラを大量に設置、警戒していたといい、専門家は「分布が南下している表れ。六甲山の防衛線が危うい」と懸念を強めている。(小林良多)
「そちらにシカが向かっています。気をつけてください」。12日午前8時ごろ、同区烏帽子町1の烏帽子中学に近隣小学校から注意を呼び掛ける連絡があった。
同校教頭が確認すると、フェンスを隔てて校庭の目の前にある烏帽子公園に大きなシカが入り、警察官がゲートボールをしていた高齢者らを避難させていた。教頭は「暴れる様子はなかったが、まさか目の前に現れるとは」と驚いていた。
市は猟友会に出動を依頼、公園内で網などを使って捕獲し、有害鳥獣として駆除した。体長130センチほどのニホンジカのオスで2、3歳とみられ、角はなかった。
灘署には同日午前7時20分以降、このシカと思われる通報が計5件あった。いずれもJR六甲道駅の周辺だった。同7時には同市東灘区御影山手でも目撃情報があり、区をまたいで移動した可能性がある。
東灘、灘区ではイノシシの出没が珍しくないが、「シカは経験がない」と市の担当者。「状況的に六甲山から出てきたのだろう」と推測する。
兵庫県によると、県内には推定20万頭のニホンジカが生息する。大部分が但馬、丹波、西播磨、淡路地域に分布するが、近年は阪神でも北部を中心に増加傾向にあるという。
シカはほとんどの植物を食べ、樹皮をはがしてエサにすることもある。農作物はイネや野菜など幅広く被害を受け、山野草も但馬地域では絶滅危惧種のほか、リンドウやオミナエシなどが次々と姿を消してきた。県内では年間4万頭以上が捕獲・駆除され、農林業被害額は減少しているが、それでも年間1億5千万円と鳥獣被害の3割を占める。
神戸市は2016年、北区内でシカの痕跡を確認。六甲山進入を防ぐため、翌年から計100台のカメラ設置を進め、昨秋は山中でオス1頭を撮影した。今回、防衛線を突破された形となり、市は監視体制の強化を迫られる。
県森林動物研究センター(丹波市)の横山真弓研究部長によると、シカは春以降、若いオスが行動範囲を広げるという。今回確認されたシカもその可能性があり、「山にエサがないから現れたわけではない。餌付けは絶対にしないでほしい」と呼び掛ける。
出没については「もし六甲山で繁殖が始まれば、頭数管理は難しく、生態系の荒廃や人身事故などさまざまな問題が発生する。特に神戸は山と近接する人口密集地にまで出てくるだろう。注意レベルが上がったと言える」と指摘している。