■福本優研究員
まちづくりの現場に出ていると「学生の若いアイデアを!」という声を耳にします。一言に「学生が関わるまちづくり」といってもさまざまですが、本稿では、専門性を生かした学生との関わりと専門性を横断した学生との関わりの二つの事例から考えてみます。
京都のとある団地で住戸再生に取り組んだ事例。学生は空間設計に専門性を持ち、住まいのシェア、これからの結婚観、これからの働き方など、大人が発想しづらい新たなアイデアで設計を進めます。
なぜ、そんなアイデアが浮かぶのか。一番の違いは“思考の順序”だということに気づかされます。彼らにはコストの概念が当初はないのです。無意識にコストを意識して仕事をしてしまう大人と違い「まずやりたいこと」を考え、それを設計しコストは最後に大人に指摘されながら修正していきます。多様なステークホルダーがいると、どうしてもコスト(お金だけでなく、人間関係や多様な柵を解きほぐす時間もコストです)が気になり事業が進まないことがありますが、そうしたコストから私たちを解放してくれるのです。
次の事例。現在、兵庫県三田市を舞台に多学部の2回生たちが地域でプログラムを実践する授業を実施しています。学生たちは、フィールドワークから情報を得て地域に資するプログラムの実践と地域構想づくりを1年間かけて行います。
先日、その授業で学生50人と地元50人の計100人による大ヒアリング大会を行いました。学生と地域住民がディスカッションし、学生は課題を見いだし実践につなげる場です。ヒアリング終了後の地域住民の声で共通していたのは、「学生のアイデアに刺激され、自分も改めて地域のことを考えたよ」という声です。まちづくりに関わる市民は、いつもは課題が気になるものですが、学生との会話の中で客観的に評価し、自分たちの活動の価値を再認識できます。つまり、私たちにまちづくりの自己肯定の必要性を示してくれるのです。
学生が関わるまちづくりでは、しばしば学生を「課題解決の魔法使い」のように扱い、斬新なアイデアを期待しがちです。しかし実際の現場では、学生は普段の常識に変化を与えてくれる存在なのだということに気づかされます。日々、いかんともし難いまちの課題に向き合っている方も多くおられると思います。そんな時は、魔法使いの登場を待つだけでなく、普段の常識を外す作業から入ってみるのも、良い手になるかもしれません。
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