２０歳、職業プロダンサー。マイケル・ジャクソンに憧れた少年は今、東京で表現者として生きている。兵庫県三田市出身の丸岡陽向さん。ダンスのプロリーグ「Ｄリーグ」でＨＩＮＡＴＡ．Ｍとして活躍し、アパレルブランドも手がける。７月にはラッパーとしてデビュー。ドラムは幼稚園から続けている。「ダンサーという枠にとらわれず、アーティストとして表現していきたい」。多彩な才能を発揮し、世界を見据える。（土井秀人）

■小学３年生でオーディションに合格

　ダンスは小学校２年で始めた。それまでバレエを習っていたが、周りは女子ばかり。楽しみを見いだせず、代わりに通ったのが、ストリートダンススクールだった。

　同じ頃、母親に連れられ訪れた映画館で「マイケル・ジャクソン　ＴＨＩＳ　ＩＳ　ＩＴ」を見た。衝撃だった。「こんなにもすごい人がいる。自分もスターになりたい」

　ダンススクールは幼稚園から通っている児童も多く、最初はついていけなかった。恥ずかしがり屋で、練習中は泣いてばかりだった。やがて、ブレイキン（ブレイクダンス）のチームに加わり、仲間ができ、踊る楽しさを知った。

　小学校３年だった２０１１年、東京・代々木第一体育館で行われたマイケル・ジャクソンのトリビュートライブで、キッズダンサーのオーディションに合格。ここから、一気に頭角を現す。テレビ番組やライブで、ＳＭＡＰ、ＴＲＦ、ＺＥＥＢＲＡのバックダンサーを務め、大会では優勝や入賞を繰り返した。

■一度はダンスから離れたが…　　　　　　　　　　　　

　「本当はサッカーの方が好きだったんです」。はにかむ笑顔に、あどけなさが残る。小学校の卒業式ではステージに立ち、将来の夢として「サッカー選手になりたい」と叫んだという。

　中学校でサッカー部に入り、２年で部の副キャプテンになった。ダンスも両立させていたが、サッカーの大会とダンスイベントが重なるようになり、サッカーに専念することを決めた。でも「ダンスから離れた時、他のメンバーが活躍していたのが悔しかった」。

　ダンスか、サッカーか。高校進学で迷った。ダンスを専門的に学べる通信制高校サポート校「ＶＡＷ栄光ハイスクール」（東京）の特待生に合格したらダンスを、落ちたら三田の高校でサッカーをする。選択は、結果に委ねた。「特待生に選ばれ、ダンスの方が向いていると改めて思った。じゃあ、それでいこうって」

　ＶＡＷでは午前中は授業、午後はレッスンとダンス漬けの日々。２年時には文部科学省などが行う「トビタテ！　留学ＪＡＰＡＮ日本代表プログラム」のメンバーに選ばれ、米ロサンゼルスに１カ月半滞在した。

■プロリーグに所属、けがで休んだ間も　　　　　　　　　　　　

　ダンスのプロリーグ「Ｄリーグ」は、２０年に発足。現在は１１チームが参加し、年間１２ラウンド（試合）が行われる。１チームのパフォーマンス時間は２分～２分１５秒で、審査員と観客が付けた得点で競う。上位４チームがチャンピオンシップへ進出し、優勝チームを決める。

　丸岡さんは、高校３年で「カドカワドリームズ」に入った。チームには１６人が所属し、試合に出られるのは８人だけ。昨年１１月に始まったシーズンは全試合出ていたが、今年４月に右膝の半月板を損傷。１週間入院し、シーズン途中で離脱を余儀なくされた。

　「決勝に残れるかの瀬戸際の時で、離脱は悔しかった。でもダンスができなかった分、やれることが増えた」。休んでいる間にラップ「ＦＲＡＺＹ（フレイジー）」を制作。７月２２日からｉＴｕｎｅｓ（アイチューンズ）などで配信し、ＦＡＳＭ（ファズム）の名前でデビューした。アパレルはオンライン販売のみだったが、原宿でスペースを借り１日限定の店を開いた。

　「やりたいことは、たくさんある。分野にとらわれず探求していきたい」。言葉で伝えるのは得意じゃない。だから踊り、歌い、ドラムをたたき、デザインをし、思いを表現する。