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「次は女性雑誌と時代の関係性、変遷について考えてみたい」と話す米澤泉教授=神戸市東灘区、甲南女子大学
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「次は女性雑誌と時代の関係性、変遷について考えてみたい」と話す米澤泉教授=神戸市東灘区、甲南女子大学
「筋肉女子 なぜ私たちは筋トレに魅せられるのか」(秀和システム、1540円)
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「筋肉女子 なぜ私たちは筋トレに魅せられるのか」(秀和システム、1540円)

 ちまたでは筋トレがちょっとしたブーム。波は若い女性にも及ぶ。このほど刊行の「筋肉女子 なぜ私たちは筋トレに魅せられるのか」(秀和システム、1540円)は、女子と筋肉という今まで目にしなかった組み合わせの背景に何があるのかを解き明かす。著者の米澤泉・甲南女子大学教授は、一昨年から昨年にかけて放送されて話題を呼んだNHK番組「みんなで筋肉体操」のキャッチコピー「筋肉は裏切らない」も、彼女らの心に響いたという。(片岡達美)

 ファッション誌に中村アンさんや人気モデル“タキマキ”こと滝沢眞規子さん、大相撲元若乃花夫人の花田美恵子さんら、鍛えた体を誇示するモデルが頻繁に登場するようになった。彼女らの魅力を一昨年夏、ヤフーニュースの記事で紹介したところ、反響を呼び、本書の執筆につながったという。「筋肉の視点から女性の生き方の変遷を見通せる」と、米澤さんは考えた。

 バブルの余韻が残る1990年代のファッションは派手でゴージャス。藤原紀香さんのようなメリハリボディが好まれた。続く2000年代の人気は親近感がわく読者モデル。こうしたファッション誌読者の意識を一変させたのが「東日本大震災だった」と米澤さんは見る。3・11を境に安心・安全、環境問題などへの関心が高まり、「女性誌は健康や地球環境に配慮するオーガニック路線にかじを切った」。

■心地いい、が大切

 物質的な豊かさを求めて着飾っても真の豊かさは得られない。それよりもオーガニックでヘルシーな、ていねいな暮らしを求める女性が増えていった。こうした流れの中で、長谷川理恵さんに代表されるようにトレーニングやランニングで体を鍛え、心身共に健康に暮らすことがファッショナブルという考え方が広がった。

 「役割としての女性性を前面に出した『コスチューム』的な服は必要とされなくなる」と米澤さん。鍛えた体は着る服を選ばない。「経済的な理由からだけでなく、服はファストファッションでOKという若者が増えている」

 スニーカーにオーバーサイズ(少し大きめ)のシャツやセーター、リュックサックなど、今の若い女性のスタイルもこの延長上にある。「着ていて気持ちよく、楽であることが大切」。職場でのハイヒール強要に反対する「#KuToo」も「健康に悪いことはしたくない、という考え方が影響している」と分析する。

 加えて「緊急時にミニスカート、ハイヒールでは逃げられない」と、自然災害が相次ぐ時代への不安も反映している。努力が必ずしも報われない現代社会では「本当に頼りになるのは自分の体。困難を乗り越えるためにも筋肉が必要なのでは」と米澤さん。

■自由意志取り戻す

 ところでなぜ「女子」なのか。

 複数の女性誌が自由な生き方を求める女性たちを「女子」と呼び始めていた。彼女らは年齢を重ねても、妻や母といった役割にとらわれず、「結婚・出産で置き去りになっていた自由意志を取り戻し始めた」。パートナー(夫)と価値観を共有し、育児も家事もシェアする。そんな生活が当たり前になりつつある現代社会を支えるのが彼女らだ。

 「カープ女子」「鉄道女子(鉄子)」など、「女子」は新規参入した女性たちに用いられる言葉でもある。男性の専売特許と思われてきた「鍛え上げる」という領域に進出してきた女性には「女子」という言葉がぴったりだという。

 本書では「筋肉女子」を象徴するクロスフィットトレーナー、AYAさんとの対談も収録した。

 筋肉は従来、男性性の象徴で、時に彼らの社会的なステータスとも結びついていた。それを美やライフスタイルの観点から、女子の文化として定着させつつあるのが「筋肉女子」だろう。「従来の男女役割意識を変える契機になるかも」と、米澤さんは期待を込める。

 

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