1995年1月の阪神・淡路大震災直後に神戸市長田区で警戒活動をした後、アスベスト(石綿)関連疾患で亡くなり、2018年に公務災害認定された兵庫県警の元警察官の男性について、地方公務員災害補償基金が「約1カ月間」の被災地活動による石綿吸引を発症原因と認定していたことが分かった。労災認定の目安「1年以上」と比べて極めて短く、建物の倒壊や解体などで石綿が飛散した被災地の危険性を示す。震災から間もなく四半世紀。関連疾患の潜伏期間が十数年から50年程度とされる中、関係者は発症多発を懸念する。(小林伸哉、石川 翠)
これまで詳細な認定理由は遺族にも伝えられず、吸引の経緯などは不明だった。同基金は今回、明石市職員として震災のがれき収集などに従事し、13年に死亡した男性=当時(49)=のアスベスト被害を巡る訴訟で初めて開示。神戸新聞社は、原告側から開示資料を踏まえた準備書面を入手した。
元警察官は定年退職後の14年1月、石綿が原因とされる悪性胸膜中皮腫と診断。同年4月に「震災時の警察活動しか石綿を吸い込む場面はなかった」などとして公務災害を申請した。同年9月に72歳で死亡後、18年3月に認定された。
準備書面によると、元警察官は95年1月下旬から長田署を拠点に救護・警戒活動で街頭を歩き、建材などに含まれる石綿を吸引。同基金は、作業期間が短く吸った石綿の量が少なくても、周辺の大気からは95年6月に毒性の高い茶石綿や青石綿が検出されており、胸膜中皮腫発症の可能性はあると判断。別の警察活動や勤務先建物を含め、他の場所で吸引した可能性は低いとし、医学的知見から被災地での約1カ月の公務が原因と認めた。
一方、13年10月に悪性腹膜中皮腫で死亡した元明石市職員は認定されず、民事訴訟で係争中。遺族側が元警察官の認定理由の開示を求め、神戸地裁が昨年4月、同基金に文書提出命令を出した。
遺族側弁護士は、公務で石綿にさらされたのは1年以上と主張して同基金に認定を求めており、「被災地での被害を幅広く救済するべきだ」と訴えている。