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阪神・淡路大震災で長男の吉岡真治さんと千恵美さん夫妻を亡くした吉岡君江さん。大きく引き延ばした写真と真治さんの文字が残る黒板が心の支えだ=神戸市北区大池見山台
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阪神・淡路大震災で長男の吉岡真治さんと千恵美さん夫妻を亡くした吉岡君江さん。大きく引き延ばした写真と真治さんの文字が残る黒板が心の支えだ=神戸市北区大池見山台
自宅に引き取った吉岡真治さんの字(左側)は、25年の間にかすれて読みにくくなった=神戸市北区大池見山台
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自宅に引き取った吉岡真治さんの字(左側)は、25年の間にかすれて読みにくくなった=神戸市北区大池見山台
見上げるほど大きくなった「命の木」の下で子どもたちにその意味を伝える吉岡君江さん=神戸市兵庫区東山町
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見上げるほど大きくなった「命の木」の下で子どもたちにその意味を伝える吉岡君江さん=神戸市兵庫区東山町

 仏間にある古い黒板。25年の歳月を経てチョークの文字は消えかかり、今では読み取れない。阪神・淡路大震災で命を落とす3日前、小学校の先生だった長男が残した字だ。愛息を亡くし、何度も崩れそうになった母を支えたのは、息子の教え子や友人、そして日々育っていく「あすなろの木」だった。(長沢伸一)

 神戸市北区の吉岡君江さん(77)は震災で長男の真治さん=当時(29)=を亡くした。真治さんは中学2年で教師を志し、神戸高から大阪教育大に進学。心理学のゼミに所属しながら剣道部の主将を務めた。卒業後、夢をかなえた。

 震災当時は神戸市兵庫区の鵯越小学校(現夢野の丘小)で5年の担任だった。前年夏には、前任の小学校で同僚だった千恵美さん=同(26)=と結婚。おなかには新しい命が宿り、夏に生まれる予定だった。

 新婚夫婦が居を構えたのは同市灘区六甲道。君江さんも当時、歩いて20分の距離に住んでいた。あの日、物が散乱する家から夫の勇治さんと飛び出した。「親孝行のあの子のことだから、すぐ飛んでくる」。避難先の小学校で待ったが、来ない。不安になり真治さんの新居に向かった。

 6階建てのマンションは、息子夫婦の住む3階部分で真っ二つに折れ、地面に崩れ落ちていた。コンクリートの塊の下から足首だけが見えた。左足の指の1本が少し長い。母だから分かる息子の特徴に、息が止まった。

 とっさに、羽織っていた布団をかぶせた。ほかにできることは考えつかなかった。千恵美さんの遺体は翌日見つかった。

 「なぜ、あのとき抱いてやらなかったのか。顔を見てあげなかったのか…」。今も悔いが残る。

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 泣いてばかりいた。花を手に、息子の墓に通う日々。絶望のさなかにいた震災の翌年、夫の勇治さんに胃がんが見つかった。既に転移が進み、手遅れだった。「お前は真治のことで頭がいっぱいで、言えなかったよ」。1996年12月に亡くなった。58歳だった。

 震災の半年後、勇治さんは同市北区に新居を購入していた。「子どもができたから面倒を見てもらいたいし、一緒に住むよ。広い場所に家を建てよう」。震災の前日、息子の真治さんがそう口にしたからだった。

 君江さんは「息子、息子で他のことを考える余裕がなかった。子どもを亡くした親はそうなってしまう。周りに知り合いのいない場所だから生きていられたのかも」と振り返る。

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 「仏壇の前に座ると苦しくて、すぐ立ち去っていた」という君江さんを支えたのは、真治さんがつくった多くの人とのつながりだった。

 同僚だった先生は、真治さんの文字が残る教室の黒板を保存し、ケースに入れて届けてくれた。

 教え子や大学時代の友人も次々と訪れ、仏壇の前で真治さんと“対話”してくれた。「怒っても後からフォローしてくれた。だから先生には付いていけた」。自分の知らない息子の一面を教えてくれた。君江さんを結婚式に招いてくれた子や、生まれた子どもを連れて来てくれた子もいる。

 年末には一緒に餅つきをした。吉岡家の恒例行事だった。真治さんも使った臼ときねで、教え子らがぺったん、ぺったん。二十三回忌でいったんやめようと提案したが、「“お母さん”に会いたい」と今年も3月に同級生らが集う予定だ。

 黒板の文字はどんどん薄くなる。いつか完全に消えてしまうだろう。でも、真治さんが残した人と人との絆は消えない。君江さんはそう思っている。

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 夢野の丘小学校(神戸市兵庫区)の運動場に、あすなろの木が植えられている。通称「命の木」。前身校の教諭だった吉岡真治さんが阪神・淡路大震災で亡くなって16年後の2011年春、母の君江さんが贈った。

 君江さんが東北旅行中に苗木を偶然見つけ、その名前に引かれた。「真治も千恵美さんも、先生になりたくてなった。子どもたちの声が聞こえる場所で、見守るような存在になれば」と寄贈を思い付いた。13年には真治さんの妻・千恵美さんが勤務していた福池小(同市東灘区)にも贈った。

 毎年1月17日。夢野の丘小では「次はあなたたちが震災を伝える番」と校長が児童に語り掛け、木の根元に土をかける。福池小でも、木に込められた思いを伝える。

 あすなろの木はまだ5メートルほどだが、成長すると約30メートルにもなる。真治さん、千恵美さんの命を受け継ぐように、これからも子どもたちを見守り続ける。

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