独り暮らしをしていた弟が孤独死したのを機に、東京都江戸川区の紺野功さん(60)が開発した見守りサービスの利用がじわりと広がっている。無料通信アプリ「LINE(ライン)」を使い、メッセージに対する返信の有無で利用者の安否を確認する。導入から約1年で約900人が登録し、兵庫県内でも約30人が利用する。紺野さんは「孤独死を防ぐのは難しくても、早期発見につなげられればうれしい」と話す。(田中宏樹)
サービスを希望する人は、NPO法人エンリッチ(東京都)のホームページから同法人をラインの「友だち」に登録し、安否確認を受信する頻度を設定。送られてきたメッセージの画面で「OK」をタップし、安否を伝える。24時間以内に返信がなければメッセージが再送信され、さらに反応がなければ事前に登録した本人や家族らの連絡先に電話がかかる。
紺野さんの弟由夫(よしお)さんは2015年2月、都内のマンションの自室で死後約1週間たって発見された。51歳だった。部屋に暖房器具はなく死因は低体温症とされた。腐敗は進んでいなかったが、警察官から「何らかの原因で倒れた後、少し生きていたかもしれない」と伝えられた。
由夫さんは自宅を拠点に自営でソフトウエアの開発やメンテナンスを手掛けていた。死後に部屋を訪ねると、パソコンのモニターが何台も置かれ、仕事机の足元には焼酎のボトルが残っていた。寝室は布団が敷きっぱなしで雑誌や段ボールが積み重なっていた。
「私は家庭を持ち、弟は独身。普段はあまり連絡も取らなくてね。家族でもそうやって縁遠くなってる人って多いと思うんです」。紺野さんが声を落とし、続けた。「でも、警察官の言葉を聞いて『早く気付けば助けられていたかもしれない』と思いましたね」
役員を務めていた携帯ゲーム会社を退職し、18年9月にエンリッチを設立。同年11月から見守りサービスを無料で展開する。登録者は東京や神奈川、大阪などの都市部が中心で、40~50代が65%を占める。
兵庫県内の50代女性は自身の経験を踏まえ、エンリッチに声を寄せた。女性の父親は急死して4日後に発見され、体の硬直により腕や足を折ってひつぎに入れられたという。女性は「死そのもの以外に別の悲しみがあった。死後何日も放置された後の処理を考えると、こういったサービスは必要だと思う」とした。
紺野さんは「弟のように倒れてから生きていた時間があるなら、少しだけでも助けられる命はあるかもしれない。遺体の腐敗を防ぐという面でも早い段階での発見につなげたい」と力を込めた。エンリッチTEL050・3702・5355