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自宅の書斎で、演劇の力や教育との関係などについて語る平田オリザさん=豊岡市内(撮影・末吉佳希)
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自宅の書斎で、演劇の力や教育との関係などについて語る平田オリザさん=豊岡市内(撮影・末吉佳希)

 昨年9月に東京から兵庫県豊岡市へ移住し、「演劇のまち」構想を進める中心人物の一人、劇作家平田オリザさん(57)に、これまでの経緯や思いを聞いた。(聞き手・石川 翠)

 -移住までして“社会実験”の地に豊岡を選んだ。

 よく尋ねられるけど、たまたまです。もとから構想があったわけでもない。僕は劇作家なので、ストーリーは後から作る。

 文化政策に力を入れている自治体は他にもあるけど、豊岡は“お荷物施設”を城崎国際アートセンターに変えてしまうなど、市長を筆頭に演劇に急速にのめり込んでいったことが大きい。それと、自分の年齢では、どこかの芸術監督を引き受けるとしても最後になる。劇団員にも以前から、話が来たら移住するかもしれないという話をしていた。

 -「演劇的手法」を用いた授業が市内の全小中学校で実施されている。

 「対話力」や「折り合いをつける力」を身に付けることが目的。社会が多様化して、自分とは異なるいろいろな価値観や文化的背景をもった外国人が暮らし、そうした人たちとうまくやっていく能力が必要になる。その社会を前提に指導要領や入試も変わるので、教育でも必要になる。

 欧米の学校では演劇が授業に取り入れられていて、僕はそこでも仕事をしている。自分が一生の仕事として選んだ演劇は、欧米では社会的地位が高いけど、日本では低い。学校の正式な科目にもない。これは悔しい。公教育にきちんと入っていくことが、演劇界の底上げにもつながることは間違いない。

 -来年、豊岡で開学を目指している「国際観光芸術専門職大学」(仮称)で平田さんが学長候補となっている。地域への影響は。

 例えば、病院に行かない人はいるけど、病院がいらないという人はいない。大学もそんなふうに、行かない人にとってもありがたい施設になるべきだと思っている。地域の誇りにしてもらえるようにしたい。

 学生は320人、教員を合わせると約400人。1人100万円使えば、直接消費だけで4億円になる。新たな雇用や消費が生まれ、経済波及効果は大きい。

 豊岡で生まれる子どもは1年で600人弱だが、多くは外に出て行くので、19歳人口は激減する。そこに毎年80人が来る。成績がいいだけではなく、リーダーシップのとれるような子が受験すると思う。このインパクトは大きい。

 -急速に「演劇のまち」へと進み、市民には温度差があるのでは。

 「コンセンサスが得られていない」や「全員に浸透していない」と言われるが、そもそもアートは完全に形にするまで誰にも分からない。

 尊敬する日高出身の冒険家植村直己さんはかっこいい冒険をしたが、成し遂げる前からみんなが「すばらしい」というものは冒険ではない。「なんだかな」と思われたり反対されたりして、終わった後に多くの人が「自分もやってみたい」と追随していく。

 城崎国際アートセンターがオープンした時も、住民には何のことだか分からなかったと思うが、ふたを開けると世界中から人がやってきた。昨年の豊岡演劇祭の観客数も想定の1・3倍だった。植村さんの冒険もそうだが、慎重にプランを立てて、どこかで飛躍する。そこから先は分からないけれど。=おわり=

 

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