新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、兵庫県内の介護施設などで面会中止が続いている。ただ、面会中止は入所者に心理的な負担を強いることになり、認知症の進行や体調不良につながる恐れもある。各施設は入居者を心配する家族にも配慮し、密閉、密集、密接の「3密」を避け、消毒などを徹底した面会スペースを用意したり、携帯電話を活用したりして交流を手助けしている。(佐藤健介、末永陽子)
「それは大変だねぇ」「声が聞けてうれしいよ」
約25人が入居する特別養護老人ホーム「花の森」(神戸市垂水区)。入所者の90代女性にとって、携帯電話で長女と話すのは日課になった。長女も「元気そう。声だけでも気分や体調が分かる」と安心した様子だ。
同ホームは2月下旬から面会を禁止。直後は、1階に見舞いに来た家族が入居者とビデオ通話できるようにしていた。
しかし、緊急事態宣言が発令された7日以降、それも中止に。今は施設の携帯電話を家族との通信に活用する。顔を見たいという家族が、近くにあるコンビニの駐車場から、入所者に手を振ることもあるという。
長友幹夫施設長(39)は「入所者のストレスは認知症進行や機能低下にもつながる。会話する機会を工夫するしかない」と話す。
県内に複数の有料老人ホームを持つ運営会社は、入居者の生活棟とは離れた1階の共有スペースを面会室として活用している。
使用前後の消毒はもちろん、入所者、家族ともにマスク着用や検温を徹底。面会する際もなるべく距離を取ってもらう。担当者は「安全対策に力を入れつつ、不安を少しでも和らげたい」と話す。
神戸市長田区の介護老人保健施設「サニーヒル」は、入所者約130人との面会を3月から禁止した。心臓ペースメーカーへの影響を懸念して携帯電話は控え、直接話せる手段は今のところない。家族からは「寂しい」との声も届く。
同施設担当者は「頻繁に会いに来る家族も多く、気の毒でしのびない」と苦しい胸中を吐露。「それでも感染防止が最優先。再開の見通しはまだ立っていない」と悩んでいた。
神戸市内の施設に認知症の母親(90)を預ける女性(63)は「週に1度は必ず会っていた。会わない間に母の症状が悪化しないか心配」と涙声に。面会禁止になってからは、絵手紙を送っている。感染防止の措置を理解しつつ、「また会える日まで何とか元気でいてほしい」と願った。
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