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神戸学院大学・総合リハビリテーション学部長阪田憲二郎さん=神戸市西区、神戸学院大学(撮影・中西幸大)
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神戸学院大学・総合リハビリテーション学部長阪田憲二郎さん=神戸市西区、神戸学院大学(撮影・中西幸大)
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 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された事件で3月、横浜地裁(裁判員裁判)は被告に極刑を言い渡した。公判中、植松聖(さとし)死刑囚は「重度障害者は周囲を不幸にする」と繰り返し、ゆがんだ偏見が動機の一つとなったことが明らかになった。一方で専門家や遺族らは、裁判では社会に潜在する差別意識まで踏み込んでほしかったと訴える。同じ頃、神戸市西区の神出病院で統合失調症などの入院患者への虐待事件が発覚した。偏見や差別はなぜなくならないのか。精神障害者の生活支援に詳しい神戸学院大学・総合リハビリテーション学部の阪田憲二郎学部長は「根底に誤解があり、当事者と直接ふれあうことで理解が進む」と話す。(津谷治英)

 -相模原事件と神戸・西区の虐待事件は、精神障害者が置かれている苦境を露呈しました。

 「精神疾患自体が長く差別されてきました。歴史は江戸時代の座敷牢(ろう)にさかのぼります。明治時代初期には取り締まりの対象だったことがあり、社会から隔離されてきた苦い過去があります。戦前に治療の必要性が認められ、専門病院が開設されましたが、戦後も鍵付きの閉鎖病棟が当たり前で、著しく人権を侵害されてきました。不妊手術、中絶を認める旧優生保護法もそんな環境下でできました。ようやく1980年代になり、医師らから開放病棟の必要性が訴えられ、兵庫でも増加しました」

 -差別の歴史を今に伝える痕跡はありますか。

 「かなり以前に建てられた精神科の病院や、入所施設のある場所を見れば一目瞭然です。市街地から離れた場所に多い。社会が自分たちの生活から引き離したかった証拠といえます。新たな施設を建設しようとすると、地域の反対にあったりもしてきました。専門的には施設コンフリクト(摩擦)といいます」

 -車いすで電車乗降する際の駅員の補助、視覚障害者対象の点字ブロックなど、身体障害者の環境は目に見える形で改善の努力が重ねられています。しかし精神障害者への対応は遅れているのですね。

 「私はかつて肢体不自由児の施設『ねむの木学園』(静岡県)に勤務していました。まだ身障者への差別が強い時期でしたが、少しずつ改善されてきたと思います。特に障害者の人権に配慮した、ユニバーサル社会の考え方が浸透したことは大きかった。福祉教育も後押ししました。小・中・高校の道徳、総合学習などで障害者の環境を理解する授業が行われていきます。車いすに乗って街を散策したり、アイマスクを着けて歩行したり。しかし、統合失調症の妄想や幻覚など、精神疾患の症状を体験するのは難しい」

 -だから理解が進まない。社会との距離を縮めるためには何が必要なのでしょうか。

 「精神障害者への誤解を取り除くことが大切です。多くの人が『怖い』『何をするか分からない』といった目で見ています。しかし、真の姿は生きづらさを抱えながらも懸命に生きている人たちです。支援が必要な社会的な弱者です。人を傷つけるような面は本来、ありません。にもかかわらず地域、社会で孤立しやすい傾向にある。市民がそんな苦境を理解し、支えられる仕組みづくりが必要です」

 -先に挙げた二つの事件の共通点として、患者が保護されるはずの施設で被害にあっています。

 「神戸の神出病院の場合はケアする専門職の看護師、看護助手らが加害者になっています。しかも複数で患者に暴力をふるっている。過去にも施設職員が暴言を吐いたり、暴力に及んだりするケースはありました。そこで、2012年に障害者虐待防止法が施行されましたが、法律をつくるだけでは限界があることを示しています。しっかり運用できる専門職の養成が急務です」

 -阪田さんは大学で、精神保健福祉士などの専門職を育てています。学生を指導する際、どんな点に注意してきましたか。

 「学生も病院や施設へ実習に行く前は、正直に『怖い』という人がいます。私は特に否定せずに、現場へ送り出します。すると実習後、学生たちに変化が見られます。実際に精神疾患を抱えている人とふれあうと、誤解がなくなるんです。例えば、統合失調症。患者さんは自分の言葉で妄想の内容を語り続ける。喫茶店の隣に座った人が自分の悪口を言っている、とかです。学生は、そんなことはありえないと思いながらも、それを聞くことで患者さんの苦しみを実感するわけです。教科書で理論を学ぶより説得力があります」

 -経験が人材を育てると?

 「そうです。学生は、病気と闘いながら懸命に生きようとしている患者さんに接し、支えたいと思い始めます。精神保健福祉の現場で働くことにやりがいを感じ、自然とプロ意識が芽生えるわけです」

 -市民も同じような経験を共有できるといいですね。

 「阪神・淡路大震災以降、『心の病』という抽象的表現ですが、精神疾患への理解が進んできました。市民が参加するシンポジウムが増え、障害者と市民が直接交流する場になっています。体験発表などで当事者の声を直接聞くこともできる。偏見解消への第一歩と考えています」

 「そんな場で期待したいのが、ピアサポートスタッフです。自らもうつ病などになり、治療や社会的支援を受けながら福祉施設で働き、同じ境遇の患者の社会復帰を支援している人たちです。関西でも少しずつ増えてきています。障害者の思いを代弁できる貴重な存在で、市民との仲介役ができます」

 「最近はピアサポートスタッフが地域の学校に招かれ、理解を訴える出前授業をしている例があります。若い年代の偏見を取り除くには理想です。そんな活動の積み重ねが、差別のない社会へつながっていくのではないでしょうか」

【さかた・けんじろう】1955年大阪市生まれ。故宮城まり子さんが創設した「ねむの木学園」教師を経て、明石市の神経科医院で精神保健福祉士として勤務。神戸学院大学教授を経て、2019年から現職。

【記者のひとこと】阪田さんとは兵庫県明石市の開業医、生村吾郎さんを通じて知り合った。生村さんは既に他界されたが、生前、診療所に「精神科」の看板を最後まで掲げず、「神経科」を貫いた。「患者さんを差別から守るため」と言って。精神障害者の歴史を考えながら、その遺言をあらためて胸に刻む。

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