新型コロナウイルスの緊急事態宣言が全国で解除され、いつもの通勤風景が戻りつつある。違うのは電車内でつり革を持たなかったり、離れて席に座ったりと、感染予防の“自衛策”を多くの人が取っていることだ。鉄道各社も対策を打ち出しているが、利用者の不安は消えない。「新しい生活様式」が始まる中、リスクの少ない通勤電車の乗り方とは。専門家に聞いた。(前川茂之)
「手すりやつり革など人の触れるものは全て汚染されていると考えて対応してほしい」。兵庫医科大(兵庫県西宮市)の竹末芳生教授(感染制御学)はそう指摘する。
JR西日本は在来線なら週1回、新幹線なら毎日、阪急電鉄は約10日間に1回、車内を消毒している。
しかし、竹末教授は「素材によって異なるが、つり革だとウイルスは少なくとも1日以上は生きる。毎日消毒しないと意味がない」と断言。「目的地に着いたら必ずアルコールで手指を消毒すべき」と強調する。
車内で使うスマートフォンにも注意が必要だ。
つり革や手すりを触った手でスマホを操作すれば、そこが汚染される。「スマホも小まめに消毒するか、車内では触らない方がいい」と竹末教授。
全国の鉄道各社が加盟する鉄道連絡会は5月、国の方針に基づき感染症対策のガイドラインを公表した。JR西は、在来線の全車両(約5200車両)のうち、京阪神を走る約3600車両を優先し、9月末までに抗ウイルス加工をすると決定。残りの車両も順次、作業を進める。
ただ、この抗ウイルス加工はインフルエンザには効果が確認されているが、新型コロナへの有効性は不明。それでも「やれることは全てやりたい」と同社。
竹末教授が利用者に勧めるのは、やはり時差出勤。各社はホームページなどで混雑する時間帯の公開を始めている。阪神電鉄の場合、大阪梅田駅が午前7時半~8時半、高速神戸駅が午前7時半~9時-などだ。「3密を避けるには混雑した時間帯に乗らないのが一番。ウイルスとの闘いはこの先2、3年続く。自粛というより、自衛策を習慣にすることが大切」と竹末教授は話す。
一方、感染症対策に詳しい関西福祉大(兵庫県赤穂市)の勝田吉彰教授(渡航医学)は、各駅停車の利用を呼び掛ける。快速や急行より頻繁に停車し、車内の空気が入れ替わる上、短時間で密集が解消されやすいからだ。つり革や手すりを触るのを避ける人もいるが「転倒する危険がある」と推奨しない。最近目立ち始めた手袋の着用については「逆に手を洗う回数を減らしてしまう人が多い。手袋をした手で目や口、鼻を触ればリスクは変わらない」と警鐘を鳴らし、手洗いの徹底を訴える。
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