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立命館大学経済学部教授の松尾匡さん=東京都(本人提供)
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立命館大学経済学部教授の松尾匡さん=東京都(本人提供)
提言を広げるため、仲間の経済学者らと5月初旬に作ったチラシ。尊厳の象徴であるバラと、生きるためのパンが描かれている
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提言を広げるため、仲間の経済学者らと5月初旬に作ったチラシ。尊厳の象徴であるバラと、生きるためのパンが描かれている

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で生活に苦しむ人が増える中、立命館大学経済学部教授の松尾匡(ただす)さん(55)は仲間の経済学者らとともに「一律の現金給付と消費税の一時停止」を提言している。緊急事態宣言の解除後も幅広い分野で長丁場の対策が求められ、不安は消えないが、国のお金の使い方を根本から問い直すことで、進むべき道が見えてくるのではないか。社会保障や教育、医療など、私たちの暮らしに直結する分野にもっと税金を使おうと呼び掛けてきた松尾さんに、インターネットを通じて話を聞いた。(新開真理)

■失業率の悪化や倒産の急増など、経済情勢は厳しさを増しています。国民の命と生活を守るため、どのような対策が必要でしょうか。

 「私たちは、直ちに全国民に20万円を給付することや、景気回復までの消費税停止などを訴えています。中でも消費税の停止は必須です。昨年10月、景気が既に後退している中で消費税が10%に引き上げられ、昨年10~12月期の国内総生産(GDP)が年率換算でマイナス7・1%になるなど、大きく崩れた。そこに今回の事態が追い打ちをかけ、増税前から懸念されていた中小零細企業や個人商店などの行き詰まりが、一気に進む恐れがあります」

 「人々の暮らしに近い場に税金を投入して需要を生み出し、景気を回復させることが不可欠です。直近の提言では100兆円を超える対策を訴えました。今回のダメージは2008年のリーマン・ショックを超え、戦前の大恐慌並みになるのでは、との見方も出ている状況を踏まえました」

■国は10万円の一律給付、学費や飲食店の家賃補助などを決めました。一方で「現金が手元にない」という悲痛な声も相次ぐ。国の経済対策に欠けている点は?

 「欠けているというより、基本的な考え方が間違っていると思います。庶民の雇用、生業を守る気がないからです。消費税は減らさず、公的支援の対象は極力絞り込む、という民間の調査研究機関の提言にそのまま乗っかっている。これでは、街場の中小零細企業はつぶれ、グローバル大企業だけが生き残るという将来像に向かっています」

 「多様な支援策があるように見えますが、その中心は支給でなく貸し付けです。国はほぼゼロ金利で資金を調達し、国民には一定期間後は利子を付けて返済させる。また、従業員への休業手当の一部を国が助成する『雇用調整助成金』で明らかになったように、やたらと手続きが複雑で時間がかかる。本気で救おうとしているのか疑問です」

■今回の提言を実行する財源は?

 「私たちは、国債を発行して日本銀行が買い取ることを想定しています。これまで『国債が増えるとインフレになる』と懸念されてきましたが、現状でその恐れはほぼありません。というのも、多くの人は所得が減り、不安な心理も長引く中、旺盛な消費が生まれることは考えにくい。その一方で、戦争とは違って国内外の企業の供給能力は大きく壊れていません。大規模な公的支援がなければ供給が需要を上回り、むしろデフレ状態になります」

 「国民が使えるお金を増やすことで需要を拡大し、完全雇用が達成されるまで、日銀がお金をつくって出しても大丈夫なのです。また、諸外国が大量のお金を支出する中、日本政府が渋れば(円の流通量が少なくなるので)円高に向かう。輸入品が安くなり、デフレ状態が進むでしょう」

■国の借金は19年度末で約1114兆円に上り、過去最大です。消費税を一時停止すると財政赤字が膨らみ、将来世代の負担が増えるのでは?

 「借金の返済を先延ばしすれば、次世代に引き継ぐ民間資産総額はその分、減らずに済みます。借金には利子が付きますが、将来の世代が手にする資産にも利子は付くので、今借金を返しても将来返しても、残額は変わらないのです」

 「むしろ増税すると確実に消費が減って不況になり、企業も設備投資を抑えるので、次世代に渡す資産が減ってしまう恐れがある。さらに、非正規雇用が増えて格差が広がり、公的支援が必要なケースが増えていきます。そうなると、将来世代の負担がいっそう重くなるのです」

■後世のため、財政再建を最優先すべきだと思っていました。

 「財政危機が誇張されてきたので、そう考える人は多いでしょう。そもそも日銀は、世の中に一定のお金を流通させておくため、ある程度の国債を持ち続ける必要があります。それは借金とみなさなくてもいいのです。確かにインフレが進めば、日銀は国債を手放し、お金を吸収する必要が生じる。でも一部です。その国債の額面金利はほとんどゼロなので、国民の負担が膨れ上がる恐れはありません」

■緊急事態宣言の解除は、雇用状況の改善につながるでしょうか。

 「雇用の問題はむしろ深刻になってきています。10万円の一律給付決定後に出された最新の民間経済予測は、本年度の実質GDPがマイナス8%程度になると見込んでいる。名目GDPは50兆円くらい減るでしょう。政府が十分な対策をしなければ、幅広い業種で倒産や解雇、賃金カットが止まらず、再び就職氷河期となり、あの恐ろしい不況がまたやって来る。私たちの元にも、収入が激減した人や学生らからSOSが相次いでいます。自殺者が出ている中、とにかく早く手を打たなければなりません」

■危機の長期化も予測されます。中長期的には、どのような経済政策を実現すべきですか。

 「苦境にある人には給付を続けつつ、累進性を高めて公平性を保つ税制が必要です。そして今こそ、生活のしんどさを『自己責任』で片付ける社会を変える時です。今回、多大な犠牲が出たイタリアなどではこれから、医療費削減など緊縮政策への怒りが噴出するでしょう。日本も約20年にわたって緊縮政策が続いた末、再不況に陥りつつある。『反緊縮』を求める声と、『コロナ対策で大量の赤字国債を発行したので、さらなる緊縮と増税が必要だ』という声がせめぎ合うのでは」

 「現政権も、少し前までは限定的ながらもお金を使う姿勢を示し、支持されてきた。最近の世論調査をみると、同じような訴えを掲げる野党の支持率が上がっています。しかし本当に求められるのは『生産性』で働く人を選別しない、真の反緊縮政策だと思います」

     ◇     ◇   

【まつお・ただす】1964年石川県生まれ。神戸大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。2008年から現職。専門は理論経済学。「反緊縮」の経済政策を広める「薔薇(ばら)マークキャンペーン」代表も務める。

【記者のひとこと】難しい言葉は使わず、思い込みや不安を丁寧に解きほぐす。3月下旬にあった集会では、胸元に「反緊縮」と書かれたパーカで登場し場を和ませた。笑顔の中に、経済学と私たちの間に橋を懸ける意志を感じる。

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