新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下の45日間、兵庫県西宮市の美術家小川貴一郎さん(49)が“監禁芸術”と題し、アトリエにこもって毎日一つずつ絵画などの作品を制作し、会員制交流サイト(SNS)で発表し続けた。今年5月に活動拠点をフランスのパリへ移す予定だったが、コロナ禍で延期に。こうした状況を、創作に集中できる好機ととらえて没頭した。その成果などが並ぶ個展が、六甲山上の「六甲山サイレンスリゾート」(神戸市灘区)のギャラリーで28日まで開かれている。(堀井正純)
小川さんは大阪府出身。絵は独学で、創作に目覚めたのは6歳の時。パンクミュージシャンが着ていたドクロ柄の革ジャケットに衝撃を受け、自らも服に骸骨を描いたという。
住宅メーカーで20年以上働いたが、2015年に退社した。「本当にやりたいことは何か」を考え、アーティストとして活動し始めた。筆はほとんど使わず、画布に水性ペンキをしたたらせたり流したりして、大胆な抽象画を制作する。服や家具にも描き、有名ブランド「フェンディ」から世界で5人だけの共同制作作家に選ばれ、同社のバッグを素材に作品を発表した経験もある。
18年にはパリで個展を開催。街の空気や人々に魅せられて移住を決めたが、新型コロナの影響で延期せざるを得なくなった。
「コロナで怖いニュースや悲観的な情報が飛び交う中、自分にできるのは作品作りしかないと思い、宣言解除まで1日1作作ろうと決めた。自分に向き合うチャンスだとも考えた」(小川さん)。緊急事態宣言が出た4月7日から、食糧の買い出し以外は外出せず、自宅で創作に集中した。
身の回りのシャツやバッグ、椅子をカンバス代わりにした。15分で一気に完成させることもあれば、6時間かかった作品も。「家族以外は誰とも会わず、充実した時間だった。出来上がったものというより、作り続けた行為自体が作品」と振り返る。
“監禁”最終日の5月21日に描いた45作目は、「グーテン・モルゲン・イン・ケルン」。過去に描いた抽象画の上に、画面を覆い尽くすようにたくさん赤い心臓を描写した。
題名は、制作中に聴いていたドイツの音楽グループの楽曲名だ。「ケルンでおはよう」という意味で、「夜明けや雪解けなど希望も感じさせる曲」といい、絵にも前向きな思いを込めた。ただ鑑賞者の捉え方はさまざまで、小川さんは「赤い心臓が、子どもにはハートに見えるが、大人にはコロナウイルスに見えてしまうことも」と苦笑する。
個展は入場無料。六甲山サイレンスリゾートTEL078・891・0650
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