総合 総合 sougou

  • 印刷
「パティシエ エスコヤマ」オーナーシェフの小山進さん=三田市(撮影・中西幸大)
拡大
「パティシエ エスコヤマ」オーナーシェフの小山進さん=三田市(撮影・中西幸大)
小山さんがインスタグラムに投稿したレシピの一部
拡大
小山さんがインスタグラムに投稿したレシピの一部

 「小山ロール」で有名になってからも、兵庫県三田市に構える洋菓子店から世界に向けて新商品や価値観の発信を続けている。応じるように、年間数十万人が三田を訪れ、店にはいつも行列ができた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による約1カ月半の休業で、状況は一変。今月2日にようやく、本格営業の再開にこぎ着けたばかりだ。それでも「パティシエ エスコヤマ」オーナーシェフの小山進さん(56)に悲愴(ひそう)感はない。休業中も、この先を見据えたアイデアを次々と考えていたという。小山さん、コロナを経験して、お菓子作りはどう変わりますか。(高見雄樹)

 -インスタグラムでお菓子のレシピを公開しましたね。「ステイホーム」の時期と相まって、多くのフォロワーが付きました。

 「ミュージシャンがファンに向けて、リモートで音楽を配信していましたよね。大好きな音楽を届けたいけど、ステージでは全く発信できない。ファンのためだけでなく、自分も奏でたいっていう思いからでしょう。プロの音楽家は音楽で世の中を幸せにしている。僕は何ができんねん-と考えたとき、家にいる時間が長いなら、レシピって役に立つんとちゃうかなと思ったんです」

 -人気店のレシピって企業秘密ではないですか。

 「また増やしたらええだけです。外出自粛期間中、自宅で妻が牛乳プリンみたいなデザートを作ってたんです。えらい簡単なん作っとんなと思って、食べたんよね。うまい! そうか、これぐらいの簡単なレシピを、ポイントを押さえて紹介したら喜びはる人がいるんとちゃうかなと思って。家庭にある材料で始めて、お客さまのリクエストに応え始めたら、2カ月で50種類ほどになりました。コロナウイルスっていう未知のものに対し、みんなで助け合おうっていう雰囲気の中、僕ができることをやっただけです。想像を超える反響でしたけどね」

 -いつも奥さんのデザートを食べるんですか。

 「ない、ない。初めて。僕がお菓子屋やから妻は作らないけど、店が閉まっててお菓子が買えないから、息子に作ったんでしょう」

 -コロナでお店は約1カ月半の間、休業しました。週末には1日3千人も訪れていたお客さんが、今は3分の1以下とか。

 「元々集客力があったので、その分、打撃も大きい。戻りが遅いことは最初から覚悟していました。その代わり、タダでは起き上がりませんよ」

 -何か発見があったんですね。

 「ケーキはショーケースに入っているけれど、パンは難しいなと思いましたね。パンはやっぱり焼きたてを、おいしそうに飾りたい。触れるか触れへんかぐらいが、シズル感(みずみずしさや新鮮さなど、おいしそうな感じ)があって、でもそういう見せ方が変わってくるよな、と。近くで人がしゃべっていたら飛沫(ひまつ)が飛び、お客さまの意識が『大丈夫か?』となる可能性だってある。だからシズル感があって、お客さまが衛生的に思える形を提案することが必要です」

 -となると、パンもショーケースに入れることになりますか。

 「どんなショーケースにするのか、業者と一緒に考えています。うちはショーケースやオーブンのメーカーが、新しい提案を発信する店でもあるんですよ。今はカメラ内蔵のオーブンをお願いしています。お菓子を試作する様子を動画でいつでも撮ってインスタで発信できるよう、スタジオを作ろうと思っているので、上下左右やオーブンの中まで、スイッチ一つで画面を切り替えられるようなものが欲しいですね。東京にいなくても、三田から十分に発信できますよ」

 -コロナによって見せ方だけではなく、作り方も変わりますか。

 「これまで除菌や衛生面に関して、みんな(普通にしていれば)何も起こらないだろうと思って生きてきましたよね。今、ワクチンが見つかるまでは、過剰なほど目に見えない敵と戦っているでしょ。でもワクチンができると、この間やってきたことがすぐに忘れ去られる。それは商売的にはキツいことですよ。でも僕らは食べ物商売なんで、考えてもみなかったようなスタイルをエスコヤマ流に落とし込み、提案しないと生きていけないと思っています。テーブル一つ拭くのも空気清浄も、これまではアルコールで消毒していたものを天然素材のものに置き換えるとか、今だから考えて提案できることがあります」

 -2003年のオープン以来、三田からの発信にこだわってきました。

 「発信することじゃなく、発信することがあるかどうか、が大事なんです。僕の場合、虫や田んぼなどの自然からインプットできる環境が多くの発信につながります。本当はもっと山の中にお店を作りたかったぐらいです。三田は大阪から近くてアクセスも良く、面白い街ですよ」

 -人々の行動は今後、どう変わるのでしょうか。

 「もっと自然を向くようになると思います。7年前に(JR大阪駅北側の)グランフロント大阪が開業したとき、半年ほど売り上げが下がりました。近所にケーキ屋ができても、神戸に商業施設がオープンしても影響はないのに。それだけ大阪は力を持った都市で、うちは大阪という都会の開発と勝負をしています」

 「僕はコロナをきっかけに三田に来たわけじゃないけど、以前から都会と自然を対比して物事を考えてきました。コロナはちょうど、便利さから来る不合理や矛盾について、考えるきっかけになりました。ケーキって体に取り込むものだから、摘みたてとかもぎたてとか、自然に近いイメージがおいしさを増します。実際にイチゴや牛乳など多くの食材が地元産です。大阪や東京の都心にあるケーキ屋さんとの違いが、ここにあります」

【こやま・すすむ】1964年京都市生まれ。フランスのチョコレート品評会で数々の受賞歴を誇り、来日した仏大統領の昼食会で提供されたことも。2019年には「世界最高峰のチョコ職人100人」に選出。

<<ひとこと >>

 「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」。大きな声で頭を下げ、店頭で手本を示す小山さん。コロナ対策で大声が出せないとどうするのですか-。尋ねると「こうやって何回も礼をして」と体を深々と折り曲げた。世界的パティシエはどこまでも熱い。その熱量が菓子を通して人を引きつけるのか。

総合の最新
もっと見る

天気(8月13日)

  • 34℃
  • ---℃
  • 30%

  • 34℃
  • ---℃
  • 30%

  • 35℃
  • ---℃
  • 30%

  • 35℃
  • ---℃
  • 40%

お知らせ