新型コロナウイルスの影響で合唱活動の自粛が続く中、兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センターが、オペラ歌手と合唱団、管弦楽団による演奏会を開催した。オペラや合唱は大きな声をだすため対策が難しいが、医学の専門家が監修して感染防止に工夫を凝らした全国的にも珍しい取り組みだ。芸術監督の佐渡裕さん(59)は「大きな一歩になった」と語る。(網 麻子)
公演「どんな時も歌、歌、歌! ~佐渡裕のオペラで会いましょう」。同センターの大ホールで23、24日にあり、ひょうごプロデュースオペラ合唱団の24人、オペラ歌手5人、兵庫芸術文化センター管弦楽団の53人が出演した。
佐渡さんの指揮で、ナポリ民謡「オー・ソーレ・ミオ」など10曲を披露。両日とも約360人が来場し、曲に合わせて手拍子を打つなど盛り上がった。
対策は多岐にわたる。
舞台の最前に立つオペラ歌手はマウスシールドを着け、客席に飛沫(ひまつ)が届かないよう10列目まで空席にした。さらに出演者同士の感染を防ぐため、ステージ前方と後方の間には、舞台の隙間から天井に向けて風を送る「エアカーテン」で仕切った。
舞台は通常の約2倍の広さにし、随所にアクリル板を設置。飛沫やエーロゾル(微粒子)対策として、後方にいる合唱団メンバーは奥行き3メートル、横2メートルの間隔を取った上で、マウスシールドを装着。エーロゾルが客席やオーケストラメンバーに向かわないよう、上向きに風を送る携帯扇風機を首に掛けて歌った。
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公演プロデューサーの古屋靖人さん(51)は「感染制御医ら2人の医師のほか、空調設計の専門家、声楽の研究家らの助言を受けて進めた。科学的な根拠を積み上げ、危険ならいつでもやめるという覚悟だった」と振り返る。
煙を使い、大ホールの気流確認実験もした。観客席下から外気と空調の空気が出て、天井から排気されるという流れを実証。客席やオペラ歌手の場所から、一部の空気がオケに流れるという課題も見えた。結果を踏まえ対策を練った。
古屋さんは「今公演に特化した感染対策で、高い効果があると考える。どこに着目し、何をやればいいか、参考にしてほしい」と言う。
合唱団の時宗務さん(43)は、5カ月半ぶりの舞台で「隣の人の息遣いが感じられないなど、普段と違ったけれど、感無量です」と喜ぶ。佐渡さんは「子守歌や小学校のときの合唱など、歌は身近にある。歌が戻ってくることが本当に音楽が再開すること。制約の中で大変だったが、一つのきっかけになればいい」と話す。
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