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近畿大学生物理工学部・谷本道哉准教授=和歌山県紀の川市、近畿大学和歌山キャンパス(撮影・秋山亮太)
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近畿大学生物理工学部・谷本道哉准教授=和歌山県紀の川市、近畿大学和歌山キャンパス(撮影・秋山亮太)
鍛え上げられた背中の筋肉=和歌山県紀の川市、近畿大学和歌山キャンパス(撮影・秋山亮太)
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鍛え上げられた背中の筋肉=和歌山県紀の川市、近畿大学和歌山キャンパス(撮影・秋山亮太)

 一体、何者なの? そう思ったのは私だけではないだろう。NHKが2018年から放送するミニ番組「みんなで筋肉体操」で、トレーニングする出演者らを独特のフレーズで励ます男性のことだ。「筋肉指導」を名乗り、鍛え上げられた逆三角形の上半身が印象的だ。その正体は、近畿大学の谷本道哉准教授(47)。聞けば、運動生理学などを専門とする研究者という。「筋肉は裏切らない」「あと5秒しかできません」「キツくてもつらくない」などのかけ声は、話題を呼んだ。外出自粛による“コロナ太り”が気になる一人として、研究室を訪ねてみた。(末永陽子)

 -大学では工学部に進学し、卒業後は一度インフラの会社に就職しています。経歴と筋力トレーニングが結びつきません。

 「幼少期はプロレスラーに憧れていました。筋トレを本格的に始めたのは、高校でラグビー部に所属してから。その後、空手を始めてからは、一回りも二回りも大きい相手と勝負できるのが楽しくて、強くなるために筋トレに励んでいました」

 「大学進学前から筋トレに関する研究に興味はありましたが、当時はスポーツサイエンスというジャンルが今ほど確立されていなかった。運動力学や筋生理学を専門に学べる大学が増えてきたのは、ここ十数年だと思います。私は数学や物理が得意だったこともあり、工学部を選びました。でも、入学直後に書店で購入したのは筋トレの指南書や専門書ばかり。気づけば、工学の本は一冊も選んでいなかった」

 -研究者の道へ進むきっかけは?

 「世の中に役立つ仕事がしたいという漠然とした思いで、インフラに関わる企業に就職しました。会社員時代は終電どころか、始発で一度帰宅してすぐ出勤するような日々。仕事の合間に筋トレを続けながら、次第に好きなことをして生きたい、と思うように。そんなときに出合ったのが、専門誌に掲載された石井直方・東京大教授の論文です」

 「ボディービルダーでもある先生の論文は筋トレを生理学的に説明していて、衝撃を受けました。『何だ、この人は!』と。すぐに教授に『先生の下で勉強したい』とメールを送り、仕事の合間に大学院入学のための受験勉強を始めました」

 -行動力に驚かされます。

 「夜に会社を抜けて、空手と筋トレ、その後戻って深夜まで残業。仕事を仕上げてから、1、2時間の受験勉強。会社で寝泊まりする日もあった。その生活を1年半ほど続けて大学院に合格し、石井研究室に入りました。運動負荷をかけたネズミの細胞を数えたり、スロートレーニングの研究をしたり。研究室は自由で、自主性を重んじてくれる雰囲気でした。東大で過ごした5年間は充実していましたね」

 「振り返れば、これまで行き当たりばったりの人生だったのかもしれません。目の前の興味があることに一生懸命取り組んできたら、今の場所にいたという感じです」

 -テレビ出演のきっかけは?

 「石井教授を通じて、番組のディレクターから長文のメールが届きました。過去にない番組を作りたいという熱意に打たれて、出演を決めましたが、最初は『筋肉指導』ってどんな立場だろう、と。思わず、クスっと笑ってしまいますよね」

 「最近では、ほかの番組に呼ばれることも増えました。ディレクターは私が別の番組で『キワモノ』扱いされるのを嫌がりますが、番組を多くの方に知ってもらうために出演しています」

 -番組内での声かけが大きな話題となりました。

 「反響の大きさに驚いています。ベースは、トレーニング中に自分に言い聞かせる言葉です。自らを追い込んで限界を感じたとき、もう一踏ん張りできるようなせりふ。動きのリズムに合わせて、声かけのタイミングも計算しています。言葉の後押しも含めて『筋肉指導』だと思っていますから。指導する立場として、やりなさいではなく、一緒にやろうというスタンスを大切にしています。(故・ジャニー喜多川さんの)『ユー、やっちゃいなよ』というより、『ウィー、やっちゃおう!』という感じ。筋トレ中はまだ10分もあると考えるより、あと10分しかできないと考える方が、前向きになって集中できる。仕事の姿勢にも通じているかもしれません」

 「昔、コピーライターの糸井重里さんの『おいしい生活』というキャッチコピーに感銘を受け、言葉の持つ力を実感しました。著書でも相手に伝わることを意識しています。以前は内容を理解できていないまま感想をもらうと『ちゃんと読んでよ』と思っていましたが、しっかり伝わるまでが伝えることだ、と。著書では目立つキーワードや小見出しなど、短いセンテンスで読者の心をぐっとつかめるよう工夫しています」

 -今後、どんな研究に取り組む予定ですか。

 「バーベルの持ち上げや腕立て伏せのとき、手の幅の取り方で効果にどう違いが出るか、などを調べています。上級者と初心者では力だけでなく、押す方向にも『差』があります。その分析によって、より効果的なフォームが研究できるはずです」

 -私も含め、運動しなきゃと思いつつ最初の一歩がなかなか踏み出せない人は多いと感じます。

 「僕の筋トレ時間は1日15分~20分程度。内容は変えますが、量より質を重視した短期集中型です。大学への通勤には自転車を使い、生活の中にも運動を取り入れています。大学まではアップダウンが激しく、長い上り坂もあるので、結構ハードです。筋トレは生き方や働き方にも通じる面があると思うんです。考え方に余裕が生まれたり、自分を肯定できたり。まずは楽しみながら挑戦してもらえたら」

【たにもと・みちや】1972年静岡県生まれ。大阪大卒。東京大大学院修士課程・博士課程修了。2013年から現職。著書に「学術的に『正しい』若い体のつくり方」など。

<ひとこと>

 取材中は終始笑顔。ユーモアあふれる語り口に時間を忘れて聞き入った。家族の話では3人の子どもの父として、優しい一面も。前向きな言葉の数々は筋トレと人柄から生まれるのだろう。私もまずは腹筋10回から…。

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