新型コロナウイルス感染拡大で、職場に出勤せず、自宅などで勤務するテレワークをする人が増えた。感染が再拡大し、終息が見通せない中、今後も普及が進むとみられる。8年前から完全在宅勤務という兵庫県西脇市のIT企業社員と、映像やIT分野に進出した企業でテレワーク環境の改善に取り組む若手幹部に、こなし方や利点を聞いた。(大島光貴、中務庸子)
西脇市。田園地帯の一角に、プログラマー伊藤淳一さん(43)の自宅はある。東京のウェブシステム開発会社ソニックガーデンの正社員。2012年の入社時から在宅勤務を続ける先達(せんだつ)だ。
パソコンを起動し、会社のオンラインシステムに入れば、そこがオフィス空間だ。画面には社長以下約50人の顔写真がずらり。話したい人に呼び掛ける。簡単なやりとりはチャット、込み入った内容はビデオ通話で。伊藤さんは「コミュニケーションに不便を感じたことがない」と言い切る。
出版社やNPO法人などの依頼を受け、電子商取引(EC)のサイトやアンケートシステムを開発する。顧客ともビデオ通話で定期的に打ち合わせ、各地でテレワークする同僚と仕上げていく。
西脇は、妻(34)の出身地だ。自宅敷地に併設する小さなパン店を妻が切り盛りする。伊藤さんは勤務中、家事や子育てを手伝うこともしばしば。チャットで「ちょっと席を外します」などと知らせれば支障はない。
同社では現在、従業員約50人全員が東京、長野、愛媛、沖縄などでテレワークをしている。可能にするのは、社員の技術や人柄への信頼だという。採用選考に力を入れ、伊藤さんの試験も約半年に及んだという。
伊藤さんは「社員が互いのスキルや、働き方を理解し合っているからこそ、余計な手続きや規則で縛られる手間やストレスを感じずに、自分の仕事に集中できている」と実感する。
神戸市中央区の藤井祥平さん(29)は金属加工の兵庫ベンダ工業(姫路市)で事業戦略部長を務める。自宅のワンルームマンションで、ソファに腰掛けた藤井さんが膝に乗せたノートパソコンを開く。
同社は映像やIT分野にも進出。14年入社の藤井さんは、新分野の事業開発や社内の業務環境の改善を担う。テレワークの制度設計にも携わり、自らも週に2日程度、喫茶店や自宅で仕事をする。
東京や京都で在宅勤務する社員もいる。難しいのは、勤務状況の把握だ。当初はパソコン画面の状況が1時間ごとに上司に自動送信されるソフトも試したが、上司も部下も心理的な負担が増した。
現在は毎週、チャット上で進捗(しんちょく)を確認し合い、時にはビデオ会議で顔を見て話す。特に、部下や後輩の状況はこまめに確認し、いざというときにサポートできるよう目配りを欠かさない。
藤井さんは「緩みすぎないよう、日や週ごとの目標を自分で設定し、達成状況を同僚と共有するよう心掛けている」と話す。
■経験者78%「続けたい」
多様な働き方を可能にするテレワーク。定着に向け、ハード、ソフト両面の課題が浮かび上がっている。
産学労でつくる関西生産性本部(大阪市)が企業や労働組合、大学などで働く人を対象に実施したアンケートでは、在宅勤務を経験した回答者389人のうち78%が継続を希望した。
一方、出社の必要性を感じることが「よくある」「たまにある」とした人は計75%に上った。機密性が高い資料を扱うケースや、決裁や契約に印鑑を必要とする商習慣が壁になっているという。情報セキュリティーの強化や契約の電子化などが不可欠だが、企業によって取り組みにばらつきがある。
在宅勤務でストレスが「増えた」「やや増えた」は計32%。仕事のやりがいが「低くなった」、人事評価が「不安」という回答も一定数あった。
新型コロナウイルス感染再拡大で、政府は各企業に再びテレワーク率7割を求める中、心のケアを含めた労務管理のあり方や業務内容の見直し、評価制度の改革などが求められそうだ。(中務庸子)
