戦争や災害の跡地など、人々の悲しみの記憶をたどる旅「ダークツーリズム」が注目を集めている。楽しさを求める一般的な旅とは一線を画する形態をどう評価するか。このほど大阪市内で開かれた関西大経済・政治研究所産業セミナーで、2人の研究者が考察した。
同大学社会学部教授の村田麻里子氏は、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺が行われたアウシュビッツ強制収容所(ポーランド)や、広島の平和記念資料館と原爆ドームを例に発表した。
村田氏は、負の遺産が観光遺産になり、展示パネルや人工的な照明が加えられている現状を説明。訪れた人にとって、その場所の意味が、悲惨なことがあった現場という本来の位置づけとは異なる文脈で記憶される危険性を指摘し「ミュージアムとしての意義は大きいが、展示手法を研究することは重要だ」と述べた。
同大学総合情報学部教授の古賀広志氏は、長島愛生園(岡山県瀬戸内市)などハンセン病療養所へのツアーについて考察した。
同施設は入居者の高齢化が進み、将来、生活する人がいなくなることが想定される。古賀氏は強制隔離政策の場となった同施設を国が撤去してしまう可能性を懸念し、記憶が継承される場として保存するため、世界遺産登録に向けての動きが活発になっている現状を紹介した。(井原尚基)