夏から秋の花火大会が新型コロナウイルスで軒並み中止になったことで、観光需要を含む経済損失額が5千億円を超えるとの試算を日本経済研究所が29日までにまとめた。芸術的な評価が高い日本の花火を担う零細製造業の経営環境は悪化しており、伝統の継承が危ぶまれる。業界は新しい花火大会の在り方も模索するが、将来像は煙に包まれている。
試算は、新潟県の「長岡まつり大花火大会」、茨城県の「土浦全国花火競技大会」、秋田県の「全国花火競技大会(通称・大曲の花火)」など、夏を中心に開催予定だった主要な花火大会約300件を調査対象とした。
花火製造業の直接の損失に加え、観客の飲食費や宿泊費といった観光需要が失われた分も含めると、中止に伴う経済損失は合計で約5300億円に上ると試算した。
コロナ禍での大会運営は試行錯誤が続く。NPO法人などでつくる「日本の花火を愛する会」はクラウドファンディングで約1600万円の支援を受け、8月22日夜、各地で一斉に花火を打ち上げるプロジェクトを企画。「3密」回避のため打ち上げ場所や時間を非公表とし、全国60カ所以上で大輪を咲かせた。
ただ、無観客や動画配信が従来の花火大会を代替することは難しい。日本経済研究所の池原沙都実研究員は「一般的に小規模な花火大会ほど警備などの費用がかからず、製造業者の手取りは増える。コロナ収束後は規模を縮小しつつ、地域や時期を分散して開催を探るべきだ」と話している。
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兵庫県内でも新型コロナの影響で花火大会の中止が相次いだ。もともと今夏は、東京五輪・パラリンピックに伴う警備員不足で開催が見送られた大会もあったが、五輪と時期をずらして準備を進めていた自治体なども、多くが取りやめた。
神戸港で毎年8月に開かれる県内最大級の「みなとこうべ海上花火大会」。今年は五輪の会期と重なるため、10月31日に日程を変更した。しかし新型コロナの収束が見えず、協賛金の確保も厳しいことなどから、6月に中止を決めた。中止は阪神・淡路大震災があった1995年以来。
姫路市の姫路港で予定されていた「姫路みなと祭海上花火大会」も、6月に前倒しで開かれる予定だったが、来場者の安全を優先して開催を断念。相生ペーロン祭の海上花火大会(相生市)なども中止となった。(岡西篤志)