「選手入場」「けが人発生しました」-。国体やマラソン大会など、大規模なスポーツイベントで情報を伝えるため、運営スタッフが活用する無線機。広い会場内の異なる場所で動くため欠かせない機器だが、時に混線をすることも。必要な情報を必要な人に伝達するには、緻密な“作戦”がある。その技術とは。(金山成美)
兵庫県姫路市にある全国有数の通信機器総合商社「城山」。通信技術を生かし、大小さまざまなスポーツイベントを支えている。2006年に地元で開かれたのじぎく兵庫国体で、無線機800台、携帯電話1200台を貸し出し、運営に関わったことが始まりだ。
ノウハウの肝となるのが「無線系統図」。安藤和正社長(49)は「通信混乱を防ぐためには必須」と説明する。情報が錯綜(さくそう)しないよう、事前に大会関係者の役割、誰と誰が情報を共有したいかなどを聞き取り、グループ分け。さらに会場内のスタッフの配置場所を記した図面とリンクさせる。
約2万人が参加する神戸マラソンなど、大規模で会場が広範囲におよぶイベント、開閉会式など大勢が参加する場所では、別々の機種や周波数を使って混線を防ぐ。スタートとゴールが同じ場所でもスタッフの役割は異なり、無線が混在すると対応が入り乱れるおそれがあり、事前にテストを重ねてトラブルを防ぐ。
昨年開かれたラグビーワールドカップ(W杯)日本大会では全国各地の会場を通信網でつなぎ、リアルタイムで情報交換ができるようにした。
培った技術は、災害対応にも広がりつつある。2011年の東日本大震災では、総務省からの要望に応えて被災地に機器を提供。17年には地元の姫路市と、有事の際に無線機を供給する防災協定を結んでいる。
例えば、災害現場と役所などを無線機で結びつけることで、迅速な動きにつながる。携帯電話は基本的に1対1で通話するのに対し、無線を使えば複数の人に一斉に連絡することができる。
また、大勢が同時に携帯を使うとつながらなくなる事態も避けられ、山間部など電波がつながりにくい場所に対応した機種があることも強みだ。
実績を買われ、昨年、大阪で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)や「全国豊かな海づくり大会」などビッグイベントに通信技術で貢献している。
安藤社長は「時代と共に求められる内容も変化している。ノウハウを生かして要望に応えられる系統図を設計し、縁の下の力持ちとして役立ちたい」と話している。
■情報通信、コロナでも活躍/体温検知、サーモカメラ普及
情報通信機器を用いてスポーツ大会を支える取り組みは、新型コロナウイルス対策でも活用されている。体温を測る「サーモカメラ」を導入し、会場を出入りする人の体調をチェックしている。
7、8月に神戸市須磨区のユニバー記念競技場で行われた陸上の兵庫選手権では、会場入り口2カ所に設置。スポーツ大会での感染拡大が懸念される中、大会主催者は最大限の対策が求められており、当日は選手や関係者約千人が会場を出入りすることから、検温のために人が滞留しないようサーモカメラを設けた。
人工知能(AI)が目を認識して人の通行を検知し、画面では人の近くに体温が表示される。当日は37・5度以上で警告が出るよう設定した。城山の安藤和正社長は「安心して安全に大会が開けるよう、通信の視点からも可能性を提案していきたい」と話している。









