新型コロナウイルスの収束が見えない中、病気の患者や要介護者を抱きかかえない介助「ノーリフトケア」に注目が集まっている。積極的に器具を使って医療・介護職員の腰痛を防ぎ、人同士の接触機会も減らして感染リスクを下げる。日本ノーリフト協会(神戸市兵庫区)は、兵庫から「新しい生活様式のケア」を発信する。(佐藤健介)
「ブランコみたいやなぁ。体を触られへんし、痛くないわ」
特別養護老人ホーム「六甲の館」(神戸市北区)。入所者の女性(94)は、車いすから入浴用のストレッチャーへリフトで移されながら、笑みを浮かべる。
いつも楽しみしているお風呂。湯船に漬かるには、車いすからストレッチャーに移乗する際に介護スタッフ2、3人が抱えなくてはならない。だが、リフトならリモコンを使って1人で操作できる。
「移動介助では介護スタッフに強く抱えられた施設利用者が『痛い、痛い』と訴え、体にあざができることもあった」と、同ホームの溝田弘美施設長(56)は話す。
同ホームは、日本ノーリフト協会のマッチング事業を活用し、介護リフトの開発企業「ウェル・ネット研究所」(兵庫県伊丹市)に6月下旬から無料で借りた。溝田施設長は「職員も『楽になった』と喜んでいる」と評価する。
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ノーリフトとは、人の力で体を持ち上げたり、ベッドで引きずって動かしたりしない手法。同協会は、オーストラリアで同ケアを学んだ保田淳子代表(49)が2009年に立ち上げた。
6月には「2020ノーリフトチャレンジ・プロジェクト」と銘打った事業を企画。賛同する企業20社以上のリフトやシート、車いす、クッションなどの器具一覧をホームページで公開し、現場のニーズを企業側に伝える。使い方を学べる動画教材も提供する。
「介護従事者は高齢者を感染させないかと不安を募らせている。ストレスは身体にも影響し、ミスを引き起こしかねない。安全に働ける環境を支援できれば」と期待する。
特別養護老人ホーム「くにうみの里」(洲本市)は6月から「ノーリフティングケア・ノート」と題した手引をホームページで公開している。同ホームは他施設の職員も交えた勉強会を開くなどノーリフトを重視しており、ノートはその成果をまとめたものだ。
今はコロナ禍で勉強会を開けない状況だが、担当者は「介助者を減らせる上、過度の接触も避けられる。介護利用者の健康的な生活を支える技術として学んでほしい」と話す。
