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横山幸雄さん=京都市東山区、リストランテ・キメラ(撮影・斎藤雅志)
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横山幸雄さん=京都市東山区、リストランテ・キメラ(撮影・斎藤雅志)
ショパン国際ピアノコンクールが開かれる国立ワルシャワ・フィルハーモニーのホール
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ショパン国際ピアノコンクールが開かれる国立ワルシャワ・フィルハーモニーのホール

 新型コロナの影響で世界中の音楽大会が中止、延期と追い込まれている。5年に1度、ポーランドで開かれる「ショパン国際ピアノコンクール」もその一つで、来年に延期された。若手奏者が競い、ピアノ界最高峰の大会で知られ、既に日本人31人を含む33カ国の164人が予備予選の出場を決めていた。大会に向けて練習を重ねてきた若い才能に今、求められるものは何だろう。1990年、歴代の日本人として最年少の19歳で3位入賞を果たした、ピアニストの横山幸雄さん(49)は「与えられた1年は、長い音楽家人生の猶予期間」と助言する。(津谷治英)

 -ショパン・コンクールの延期で出場を目指してきた若手のモチベーションが心配されます。

 「私が指導している中にも、予備予選出場が決まっていた生徒が何人かおり、彼らから延期を聞きました。数多いコンクールの中で最高格に位置付けられ、世界中のピアニストが目標にするコンクールです。確かにモチベーションに影響する人もいるかもしれませんが、私は1年の猶予の時間をいかに使うかが大事だと思います」

 「今年は東京オリンピックも延期になりました。肉体的極限を競うスポーツでは、1年という期間は選手生命に関わるでしょう。しかし、音楽など芸術は蓄積が重要です。時間があればあるほど、新たな境地を切り開く機会が増えます。大事な演奏会を前に『もう少し時間があれば』と思うピアニストも多いですよ」

 -来年に向けて、さらに腕を磨くことができるということですか。

 「自分にしか発信できない音楽を見つける可能性が高まったのですから。個人的には、近年、勝つことが目的の『コンクール至上主義』の傾向が強くなっているような気がしています。今はネットで情報が簡単に入手できます。ショパン・コンクールも入賞者の得点、評価などが公開され、本審査の演奏風景をネット中継で見ることもできる。私が出場した30年前に比べると、留学もしやすくなりました。どのピアニストの指導を受ければいい成績につながるか、といった情報まで流れています」

 「むろん競うことは大会の要素の一つです。しかし、コンクールはあくまでも通過点で目的ではありません。入賞に満足していては、音楽家としての可能性が小さいものになってしまう。それを懸念します」

 -そういえば近年、中国や韓国からの出場者が増えています。その中で、日本人の入賞者は2大会連続で出ていません。

 「特に中国の台頭は著しい。入賞を目指して必死に情報収集し、練習してきます。音楽で成功すれば社会的な地位が上がるし、経済的に豊かになれます。ただ、日本のレベルが下がってきたとは思いません。中国の人口は日本の10倍以上ですから、人口比率を考えればそれなりに優秀な人材が出てくるのは自然でしょう。カナダなど海外で修業してきた人も多いですね」

 「私の体感では、本場のヨーロッパの人たちは、コンクールの『競技会化』の流れに一線を引いているように思います。だから、アジアからの出場者が目立つように感じられるのでしょう。それに伴ってコンクールの国際化が進んできた。近年の特徴の一つですね。ショパン・コンクールは他の大会と比べ、特別な面があります。課題曲がショパンの作品に限定されていますから、ポーランド人にとって母国の偉人をたたえる誇りのようなものです。しかし、ポーランドの中でも、自国のプロパガンダ的大会になることに異論を持つ人が少なからずいます」

 -国籍を問わず、若い演奏者に期待することは何ですか。

 「コンクールの本来の目的は、新たな才能の発掘でした。音楽家として一生活動するならば、入賞はそのパスポートを入手するにすぎません。ピアニストに引退はありません。90歳になっても、体力が許せば演奏は続けられる。その後の長い人生を考えると、コンクールで得点によって判断されるより大事なものがあります。それは、指導する先生に言われたように正しく弾くことではなく、その作品に対する深い共感が聴衆に伝えられるかどうか、です」

 「今、新型コロナウイルスの感染が広がっていますが、どんな環境になっても、演奏者が心から奏でる音楽が支持されることに変わりはありません。著名な大会で入賞することは、自分の存在を世の中に伝える貴重な手段ではあります。すぐにコンクール至上主義から脱却するのは難しいと思いますが、心を込めた演奏ができる新しい才能が生まれることを期待したいです」

 -新型コロナウイルスの感染拡大では、コンクールの開催だけでなく演奏活動にも影響が出ています。

 「公演が中止となり、活躍の場を失った演奏家は多い。そこでオンラインで演奏を発信する人が増えています。私も今春から始めました。もともと全ての音楽ファンがコンサート会場に足を運べるわけではありません。仕事などで来られない人もいます。そんな人たちに音楽を届ける手法が広がれば、音響技術の発展も期待できます。生演奏が素晴らしいことに変わりはありませんが、音楽の鑑賞スタイルの変化によって、より上質の音を家庭で聞けるようになる可能性があります。マイナス思考では発展は望めません。新たな音楽発信の機会が生まれた、とプラス思考にとらえたいですね」

【よこやま・ゆきお】1971年東京都出身。90年、ショパン国際ピアノコンクールで日本人最年少入賞。昨年、ショパンが生涯に作曲した全240曲を3日間で弾く演奏会を成功させた。

【ショパン国際ピアノコンクール】チャイコフスキー国際(ロシア)、エリザベート王妃国際音楽(ベルギー)と並び世界三大コンクールとされる。ピアノの詩人と呼ばれたフリデリク・ショパン(1810~49年)の功績をたたえ、母国ポーランドで1927年に創設された。事前に予備予選があり、通過者が1~3次の予選を経て本選(ファイナル)で入賞を競う。日本人では、37年に神戸市須磨区出身の原智恵子さんが特別聴衆賞を受賞。以後、12人が入賞している。

■ショパン国際ピアノコンクール 過去の日本人入賞者

第5回(1955年)  田中希代子(10位)

第7回(1965年)  中村 紘子(4位)

第8回(1970年)  内田 光子(2位)

            遠藤 郁子(8位)

第10回(1980年) 海老 彰子(5位)

第11回(1985年) 小山実稚恵(4位)

第12回(1990年) 横山 幸雄(3位)

            高橋多佳子(5位)

第13回(1995年) 宮谷 理香(5位)

第14回(2000年) 佐藤 美香(6位)

第15回(2005年) 山本 貴志(4位)

            関本 昌平(同)

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