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ウスビ・サコさん=京都市左京区、京都精華大学(撮影・吉田敦史)
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ウスビ・サコさん=京都市左京区、京都精華大学(撮影・吉田敦史)
中国に留学していた頃の一枚(本人提供)
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中国に留学していた頃の一枚(本人提供)

 「あっという間でした」。日本で初めてのアフリカ出身学長として、メディアで紹介されることが多い京都精華大学のウスビ・サコさん(54)は、就任からの約2年半をそう振り返る。学長になったからこそ数々の課題が見えてきたといい、毎日のように驚かされることに出合うと話す。遠い国からやって来たサコさんの発言は常に注目を集めるが、自身の方針は至ってシンプルで、創立68年の同大学が掲げる「自由自治」の理念に立ち返ること。学生のニーズをくみ取りながら、外国籍の教授や留学生、女性の役職を増やすなど、ダイバーシティを重視した改革に取り組む日々だ。「でも適当で、説明できないことがいっぱい」というサコさん。学長室から、日本と日本の若者はどう見えているのだろう。(片岡達美)

-学長としての日々を、どう感じていますか。

 「周りの人が『これはどうしましょう』『あの件はいかがしましょう』とお伺いを立てに来ます。学長になってすぐの頃は、職員が学長を立てようとして自発的な行動を抑制するのに、なかなか慣れませんでした。『そんなん知らんやん。自分でやったらええやん』といつも心の中で思いながら、『あなたならどうしますか?』と問うようにしてきました。『これまでどうしていましたか?』と聞くのが日本的かもしれませんが、それでは前例踏襲になってしまう。もっとよくするにはどうすればいいのか、一緒に考えます」

 「大学には学生が卒業する際のディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)があり、それに基づいたカリキュラムの編成が前提です。でもカリキュラムの改革を巡って、特定の教授から『私の授業がなくなるのはおかしい』と抗議されることがよくあります。『“私の”ってどういう意味ですか』と聞いても、適切な答えは返ってきません。これまでポリシーではなく、ルーティン(習慣)と感覚でやっていたの? とあきれてしまい、『そのお考えはいいですね』と(嫌みを込めて)返したりしていましたね」

-生まれ育った西アフリカのマリ共和国では、国民の90%がムスリム(イスラム教徒)ですね。どういう経緯で日本に?

 「マリは現地のバンバラ語で『カバ』のこと。出身地の首都バマコは『ワニがいる川』。ですから、日本語で自己紹介すると『カバ共和国のワニ川市から来ました』となります。マリでは高校の成績上位者3~5人が卒業後、国の奨学生として留学できます。割り当てられた行き先が中国でした。北京で1年間、中国語を学んだ後、南京の東南大学で建築を専攻しました」

 「同じ漢字文化圏で研究を深めようと思って、1991年、京都大学大学院に入って建築計画を学んだのです。そして大学院修了後も京都に残り、2001年に京都精華大の専任講師になりました。この間に、同じく南京に留学していた妻の千賀子と再会し、94年に結婚しました。02年には日本国籍を取りました」

-若者たちに向けて書いた新著「『これからの世界』を生きる君に伝えたいこと」(大和書房)を読むと、関西弁のツッコミが連発でした。いったい何カ国語を話せるのですか。

 「最も多く使うのが日本語と英語で、マリの旧宗主国のフランス語、留学先の中国語もできます。ほかに、私の民族の言葉であるソニンケ語、出身地のバマコで使われるバンバラ語、幼い頃、コーランを暗唱させられて覚えたアラビア語、学校で習ったロシア語も。人より言語習得能力があるのかもしれませんね」

-長年、建築と社会の関係を研究してこられ、それが大学で生かされていると聞きました。

 「廃校となった小学校を地域の集会所にして、コミュニティーがどう再生されるかを調べてきたこともあって、現在建設中の新校舎は学内外から人が集い、自作の展示やイベントなど自由に使えるオープンスペースをメインにしています。教室棟ではありません。グローバル・ラウンジ(カフェ)と呼べるような場所もつくっています。誰でもふらっと来て、コーヒーを飲みながら意見を交わす。留学生と話したり、職員同士が自由に意見やアイデアを出し合ったり。自主的に何かをしようという動きが生まれたらうれしいですね」

-今の学生は就職にしばられ、自由がないように見えますが。

 「確かに大学が高校の延長のようになっています。大学にとっても、学生の進路で評価が決まるから、進路指導は最重要。でも、大学は正解を教える場ではありません。一方的に何かを教わるのではなく、学んだことを自分の力で、自身の知識にするところなのです。日本の若者はチャレンジを極度に恐れているようにも見えます。失敗が許されないと思うからでしょう。大学が自由を与えてくれると思っているの? なんでやねん!? って思います」

-新型コロナ禍でリモート授業を継続する大学が多い中、京都精華大学では対面式の授業を再開します。

 「反対意見はありました。でも、やってみないとわかりません。もちろん、対策は講じます。日本では新型コロナにかかった人が責められ、肩身の狭い思いをします。誰も、かかろうと思ってかかるわけではありません。感染したとき、どう対処するか、かかった人をどうサポートしていくか、そこがポイントになると思います。個人ではなく、みんなで責任を負っていかないと」

-グローバル化が進む中、それに対応できる人材の育成が期待されます。グローバル化についての考えを聞かせてください。

 「あなたが考えるグローバル化って、何ですか。英語が話せることですか? 海外で働くことですか? 私には指標にしている言葉があります。『メタモルフォーゼ』。日本語に訳すと『変身』『変化』。これを私なりに言い直すと、『核となる自分自身を保ったまま、社会に適応した自分をつくっていく』『中身を維持したまま、外側を変化させていく』となります」

 「学生には、すでにある答えを探すのではなく、問いを立てる力を持ってほしい。小さな問いの積み重ねが自分自身の価値観をつくります。その価値観を軸にすれば、異なる文化を持つ人とも対話し、理解し合うことができる。自分自身を知ることから、本当のグローバル化が始まります」

【Oussouby-SACKO】1966年マリ共和国生まれ。京都大学大学院工学研究建築学専攻博士課程修了。2013年京都精華大学人文学部長、18年から同大学長。専門は建築計画・コミュニティー論。京都の町家再生などを調査研究。著書に「知のリテラシー・文化」など

〈ひとこと〉飛行機で隣席の京都の人と意気投合し、「家に遊びに来て」と言われたので後日訪ねると、「本当に来た!」とびっくりされたとか。記者が「では今度、わが家に」とお誘いすると、「『やっぱり来た!』って言うんでしょう?」とちゃめっ気たっぷりの笑顔で返された。

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