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感染症予防に配慮しながら開かれるナイトマーケットの会場=豊岡市日高町日置
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感染症予防に配慮しながら開かれるナイトマーケットの会場=豊岡市日高町日置
中堀海都+平田オリザ「零(ゼロ)」(c)igaki photo studio
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中堀海都+平田オリザ「零(ゼロ)」(c)igaki photo studio

 兵庫県豊岡市で9月に開かれた「豊岡演劇祭」訪問記。2、3日目は演劇以外の催しにも足を運んでみた。(溝田幸弘)

 2日目の9月13日は、朝から城崎国際アートセンターに行き、話題作のQ「バッコスの信女(しんにょ)-ホルスタインの雌」のキャンセル待ちの列に並んだ。関西初演とあって見ておきたかったが、1時間ほど並んだ末にキャンセルは4人だけ。無情にも目の前で締め切りとなった。

 空いた時間をどうするか思案した。だが日程表は“誘惑”たっぷり。これも演劇祭の魅力だ。悩んだ末、江原地区を選んだ。目的は越後正志さんのインスタレーション「観測地点」。

 地域の人々や自然の“観測”からの着想を作品に昇華した。商店街、酒蔵、河川敷と3カ所に分かれた会場をめぐる。地元商店主と高校生のふれあいを収めた写真と音、円山川に生息する巻き貝類・ヒメタニシの動く影を壁に拡大投影する展示作品…。自然に囲まれた但馬での生活にしばし思いをはせた。

 夕刻は「中堀海都+平田オリザ」の作品を見に豊岡市民会館へ。現代音楽のオペラというので覚悟して席に着いた。

 難解という印象を持ったが、それは、幅広い解釈の余地がある作品ということでもある。筆者はレビュー(別項)のように受け取ったが、人によって理解は異なるだろう。そういう話ができれば…、ということで、同僚記者と江原駅前に転戦。演劇祭のナイトマーケットを訪れた。

 本来ならこういう場で酒など酌み交わし、あれこれ話すのが演劇鑑賞の醍醐味(だいごみ)だ。しかしコロナ対策のため今回はアルコール類の販売はなし。食事も社会的距離を保って騒がず静かに取らねばならない。「本当に残念なんですが…」。開催前の記者会見で、平田さんが心底悔しそうに話していたのを思い出す。ビールの代わりにコーヒー「炎劇(えんげき)ブレンド」をいただいた。温かかった。

 最終の14日、城崎文芸館でのトークイベント「戯曲の未来」をのぞいた。

 出演は市原佐都子、岩井秀人、前田司郎、平田オリザ-演劇祭の参加アーティスト4氏に柳美里氏の5人。全員が岸田国士(くにお)戯曲賞を受賞している、東京でもお目にかかれそうにない豪華な顔ぶれだった。

 今年の受賞作「バッコスの信女」について、作者の市原さんを囲んで語り合ったり、受賞者ならではのこぼれ話を披露したり。大先輩に囲まれやや硬い雰囲気の市原さんを、岩井さんらがほぐしにかかっていたのが楽しかった。

 文芸館を出る。予定していた行程を終えて、どっと疲れが押し寄せた。豊岡、城崎、竹野、江原。会場が分散しているとはいえ、若い頃ならなんともなかったんだろうなあ-とため息をつく。

 顔を上げる。そうだ、今自分がいるのは温泉街ではないか。即座に外湯の一つ、まんだら湯へ向かう。露天風呂から見える秋めいた景色が心地よい。そして驚いたことに、風呂から上がると疲れは霧消していた。

 コロナ禍での開催となった今年の演劇祭。規模縮小だけでなく、地域観光との連動など当初想定していた数々のセールスポイントを十分に打ち出すことはできなかったが、演劇の楽しさは堪能できた。また昨年、試行的に開かれた「第0回豊岡演劇祭」では、城崎で拾ったタクシーの運転手が演劇祭を知らないなど市民への浸透はまだこれからと感じたが、今年は地域の協力で生まれた作品が上演されるなど理解の高まりも実感した。コロナの呪縛が解ける来年(もしくはそれ以降)、さらに魅力が増すのは確実だろう。

 豊岡市では兵庫県が、観光とアートを学べる「国際観光芸術専門職大学」(仮称)の来春開学に向けて準備を進め、平田さんは学長候補となっている。「演劇のまち」豊岡がどこまで進化するのか。がぜん目が離せなくなってきた。

■作品レビュー 存在の根源へさかのぼる旅 中堀海都+平田オリザ 室内オペラ「零(ゼロ)」

 国際的に活躍する作曲家・中堀海都と平田オリザによる、現代音楽のオペラ作品。

 大切な記憶を思い出せず、どこにいるのかも分からない-。不安定な女性の心象が、中堀の指揮による演奏でかたどられる。時に荒波、時にさざ波のように。

 ソプラノの「うた」は言葉になっておらず、そのこと自体が一つの意味となって観客に迫る。荒涼とした空間でただ一人あてもなく、「うたう」という行為によって自らの存在を主張し続ける。歌声を通して悲しみ、苦しみという感情を直接ぶつけられたような気がした。

 平田が書き下ろしたサナトリウムの女性3人の会話も示唆に富む。繰り返し登場する「私は生きているよ」「死んでないよ」というせりふ。そしてなぜ人は、立ち去ろうとする人に「待って」と言わず「どこにいくの」と問いかけるのかというやりとり…。前者が自分の存在を主張する言葉とすれば、後者は誰かとともに存在することを求めていると受け取れる。

 そしてラストシーンへ。4人の女性が穏やかに過ごす傍らで演奏の苛烈さは頂点に達した。「私が存在するとはどういうことか」。素朴な問いの根源へさかのぼる旅へと連れて行かれたような時間だった。

     ◆    ◆

 神戸新聞NEXTは豊岡演劇祭を特集したページを設け、関連記事や動画を紹介しています。但馬総局の記者が会場をめぐり、劇作家や演出家、観客らにインタビュー。現地の雰囲気を味わえます。

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