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神戸市灘区、スタンドバー「モンク」(撮影・中西幸大)
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神戸市灘区、スタンドバー「モンク」(撮影・中西幸大)

■ノンフィクションライター  松本 創さん(50)

 お隣の大阪が揺れている。11月1日に「大阪都構想」の住民投票を控え、「変える」「変えない」の言葉が飛び交う。住民投票では、大阪市をなくして四つの特別区へと枠組みを変える賛否が問われる。神戸市と同じ政令指定都市の大阪市がなくなると何が変わるの? 兵庫に住む私たちに影響は? 都構想を看板政策にする「大阪維新の会」と、それを取り巻くメディアを取材してきたノンフィクションライター松本創さん(50)は「ふわっとした、何か変えてくれそうというイメージ先行の危うさ」を指摘する。新型コロナ対応でも首長の発信力でも、しばしば比較される大阪と兵庫。松本さん、この行方どう見てますか。(山崎史記子)

 -5年前の1回目の住民投票後に出版された著書「誰が『橋下徹』をつくったか 大阪都構想とメディアの迷走」(2016年、日本ジャーナリスト会議賞)が、再び読まれているそうですね。

 「5年ぶりの緊急重版だそうです。ありがたいことに、今回の2回目の住民投票を前にいろんな人が手に取ってくれている。この本は、当時の橋下市長と在阪メディアがつくり出していた空気感や『現象』を書いてます。メディアは橋下氏の刺激的な発言を垂れ流し、批判する記者は橋下氏に徹底的に攻撃されていました。かつて『自民党をぶっつぶす』とぶち上げ、郵政民営化を旗印に改革を訴えていた小泉現象をさらに強めたような状況でした」

 「一つの流れに雪崩を打つような報道、これは何なんやと。取材先に食い込むのと、一体化してしまうことは違う。強権で世論を動かす政治家や権力に、記者個々人とマスメディア企業が恐れず対峙(たいじ)しなければ、大変なことになります。少数者の存在、個人の意見や生き方の多様性がのみ込まれ、不寛容で不平等、経済の合理性が何よりも優先されたとても生きにくい社会になってしまう…。そういう危機感があって、しっかりしてほしいと記者たちを応援するつもりで書きました」

 「けれど最近も、例えば『うがい薬がコロナに効く』なんていう吉村洋文知事の発言が生放送され、あげく混乱を生んでいる。メディア、特にテレビはこの本を書いた当時と状況が変わっていない。残念やなと思います」

 -大阪都構想について、何がどうなるのか、本当に分かっている人はどれだけいるんでしょうか。

 「例えば、神戸市をなくして兵庫県が予算と権限を持っていきます、そして、あなたの住所は兵庫県神戸市灘区××ではなく、兵庫県灘区××となりますよ、って言われたら、賛成する神戸市民はどれくらいでしょうね。大阪市や神戸市と同じ政令指定都市は全国に20ある。そのすべてが道府県との二重行政のせいで停滞しているのでしょうか?」

 「そもそもで言えば、大阪都構想の協定書の検証が少なかったことが問題です。討論会で誰が何を言うたという空中戦を報道したところで、言葉だけが独り歩きする。今回、問われている大阪都構想のような制度論っていうのは、分かりにくい。特に若い人は『改革』という言葉が好きやし、メディアもそういう空気をあおってきたところもある」

 -空気感をつくったメディア側にいる人間として責任を感じると?

 「都構想を掲げてきた大阪維新の会が発足して10年。変わったことは何か。万博誘致やIR(カジノを含む統合型リゾート施設)、インバウンドの政策を進める一方で、切り捨てているものがあります。防災や福祉の現状はどうなっているのか。街を歩いて現場の生の声を聞かなければ、問題の本質は見えてこないでしょう。かつて市町村が激減した『平成の大合併』や郵政民営化では、20年近くたってから、引き起こした事態が明らかになっている。生活に関わる問題は、気付いた時には手遅れな状態で判明すると思います」

 -大阪都構想の結果は、兵庫に影響するんでしょうか。

 「新型コロナの感染が広がっていた3月下旬の連休直前、テレビの生放送で吉村知事が大阪と兵庫の往来自粛を突然、要請しました。その後もしばしばテレビに出て発信する吉村知事が、コロナ禍で強いリーダーシップを発揮していると見る人は少なくありません。けれど、大阪市が新型コロナの治療現場で防護服の代わりになるとして、大々的に呼び掛けて集めた雨がっぱの行方、どれだけの人が知ってるでしょう。在阪メディアは検証していたでしょうか」

 「維新と敵対している兵庫の井戸敏三知事はこの間、吉村知事と対比されてきました。維新が今回の住民投票で勢いづけば、兵庫へも知事選挙をはじめとする首長選にどんどん切り込んでくるでしょう。『改革』のイメージ、何か変えてくれそうな雰囲気。でも、中身はどうなのか。改革指向の一方で、切り捨てているものは? よく見ておくべきだと思います」

 -この夏からネットで始まった「地方メディアの逆襲」(webちくま)という刺激的なタイトルの連載も、気になるところです。

 「ネットの隆盛でマスメディアが過度に嫌われ、取りあえずメディアを批判しておけば、何かを言ったような気になる風潮を感じます。だから今度は逆に、ジャーナリズムの使命を果たしているマスメディア、記者たちの奮闘を描きたいと思いました。基地問題を抱える沖縄の琉球新報、イージス・アショア問題を掘り起こした秋田魁新報など、産業として縮む新聞やテレビの中にも現場で踏ん張る、尊敬すべき記者たちがたくさんいる。それぞれの地域に根差して取材する、地方メディアの記者やディレクターにシンパシーを感じています。自分の仕事が、志あるメディア企業や記者たちをつなぐことができればうれしいですね。それにこれは、地方紙の気持ちが分かる自分がやるべき仕事と思ってます」

 -仕事の軸足は「地方」なのですね。

 「神戸新聞を辞めてフリーになって14年。今までやってきた仕事は、新聞社時代に考えたこと、やろうとしたけど挫折や失敗したこと、考えようとして考えきれなかったことが起点になっています。そして、新聞記者として遭遇した事柄や出会った人たち。これまで手掛けた東北の震災取材、人気政治家とメディアの関係、尼崎の脱線事故遺族とJR西日本の闘い、すべてそうです」

 「特ダネや話題性を追ってニュースの現場を飛び回わったり、権力の中枢に食い込んで天下国家を語ったりするジャーナリストもいる。けれど自分は、買い物をしてごはんを作って酒を飲み、人と出会う生活の場で見えてくる問題意識を大事にしたい。時間をかけて、一つの事柄や人物に向き合いたい。地域や現場に軸足を置き、権威や組織よりも個人に視点を置く。今後もそういうスタンスでいたいと思うし、その意味で自分の本分は、今も『地方紙の記者』やと思っています」

【まつもと・はじむ】 1970年、大阪府吹田市生まれ。同志社大卒。神戸新聞社に14年間勤務後、フリーに。著書「軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い」で講談社本田靖春ノンフィクション賞。神戸市灘区在住。

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