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1日2万5千歩以上は歩く。雨の日も風の日も=JR三ノ宮駅周辺
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1日2万5千歩以上は歩く。雨の日も風の日も=JR三ノ宮駅周辺

 今年、降ってわいたように出現した「新型コロナウイルス」は、私たちの暮らしを激変させました。いきなり窮地に立たされ、戸惑い、迷う日々を送る人はたくさんいます。コロナ禍を生きる人たちの声に耳を澄ましました。

 ホームレス巡回相談員・63歳、男性/路上生活者を保護し、自立を促す神戸市の「更正センター」で25年勤務。定年退職後、再任用で現職。男性、63歳。

■給付金届けたい

 私は神戸市内を歩き回り、ホームレスの生活や健康、悩みなどの相談を受ける「巡回相談員」です。

 新型コロナで、街にホームレスが増えるのではと心配しましたが、どのルートを歩いても「新人」がいる気配はない。少し安心しました。まだ油断はできませんが…。

 神戸市内のホームレスは昔に比べてずいぶん減っているんです。

 15年前までは300人以上いたんですが、ここ数年は35人前後で推移しています。巡回相談員は2人ですが、全員と接触できるんです。

 その代わり毎日、とてつもなく歩きます。スマホの歩数計は毎日だいたい2万5千歩くらい。この仕事は「健脚商売」ですわ。ははは…。

 5月下旬から8月中旬までの課題は定額給付金でした。国から支給される10万円をホームレスにも届けないといけません。ハードルは高いけど、手続きをきっかけに心を開いてくれたらなぁ、と思っているんです。

 まずは本人の情報を聞き出さないといけません。

 名前と生年月日、これまでどの町に住んできたか。データを市の定額給付金室の職員に伝え、本人確認をしてもらうんです。

■反応は「給付金?何それ」

 新聞やテレビを見ていない人が多いから、いきなり「給付金」と言うと、疑われることも結構あります。だれだって急に他人から「お金をあげる」と言われると身構えてしまいますよね。

 給付金のことを伝えても身分を明かしてくれない人も、全体の4割くらいいます。昔より数が減った分、複雑な事情を抱えている場合が多いのです。過去に生活保護を受けようとして失敗しているとか、借金をして逃げているとか…。

 そういう人は、少しずつ心をほぐしていくしかありません。2日に1回くらいは顔を合わせ、何度も話しかける。申請期限の8月18日まで、粘り強く受給を呼び掛けました。

 彼らはみんな、何らかの事情があって路上生活をしている。でも人間として生まれてきたんだから、人間らしい暮らしに戻ってほしい。家を借りて生活保護を受け、その次に仕事を見つけて自立してほしい。

 定額給付金の10万円は、そのきっかけになるんじゃないかと思ってます。

■人間の弱さ、痛いほど見てきた

 私は25年間、更生センターの職員としてホームレス支援に携わってきました。巡回指導員は4年前からです。

 人間の弱さを痛いほど見てきたつもりです。

 特に男は弱いもんで、酒やばくち、女性がきっかけで簡単に人生が狂う。でも狂ったものは、必ず元に戻せるはず。少しでもその手助けをしたいんです。

 「相棒」のNさんと2人で神戸市内を巡回し、定額給付金の交付のため、5月下旬から名前と住民票のある住所の聞き取りを始めました。

 1回目の接触で集めた情報が住民票と合致し、すんなり申請書が渡せたのは6人だけ。情報が間違っていたりして、本人は受給したいのに申請手続きに入れない人も10人ほどいました。

■ポイントは住民票のありか

 ホームレスが給付金をスムーズに受け取れるかどうかは、住民票のありかによって決まります。

 4月27日時点の住民票が(1)神戸市内にある人(2)市外にある人(3)何らかの理由で住民票がなくなってしまった人-の3パターンがいるんですな。

 (1)なら話は早い。すぐに申請書を渡せるので、受給までの道筋がはっきりと見通せます。(2)なら、その自治体の連絡先などを調べ、本人に伝えます。

 問題は(3)です。改めて住民登録するために、本人の置かれている状況を聞き取る必要がある。

 家がある友人がいれば、住民票を置かせてくれないか頼むのも手です。それでもだめなら、簡易宿泊所にしばらく住み、「居住実態がある」として申請することも考えないといけません。

 なぜ住民票がなくなるか? いろんな事情があるからねぇ…。

 例えば、今回初めて名前を教えてくれた男性は、住民票を照会すると家族の申し出で住民票が消されていました。10年ほど前にふらっと行方をくらまして、家族からも居場所が分からなくなったからです。

 ■法的に「死んだ人」救いたい

 法的には「死んだ人」。そんな状態だから、改めて住民登録の手続きをするよう指導しました。

 時間はかかるけど、今後彼が立ち直るためにはどのみち必要なこと。それが分かっただけでも大きな収穫です。

 苦労のかいあって、受給を希望する約15人全員が給付金を受け取れる見込みです。後は彼らがこのお金をどう人生に役立てるか。われわれも注目しています。

(聞き手・伊田雄馬)

 

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