数々の伝説に彩られた古代史のスーパースター的存在で、仏教興隆に努めた飛鳥時代の政治家・聖徳太子(574~622年)を題材にした仏教美術や史料を集めた特別展が、神戸と大阪で催されている。近年のいわゆる「聖徳太子はいなかった」説で政治的業績が疑問視され、実像は揺れ動いているが、生涯を絵画化した「絵伝」などに描かれるのは、聖人・超人としての逸話の数々。太子が長く人々の信仰の対象となってきた歴史を雄弁に物語る。(堀井正純)
太子は用明天皇の第2皇子である厩戸皇子(うまやどのみこ)。女帝・推古天皇の摂政となり、冠位十二階や十七条憲法を制定し、遣隋(けんずい)使派遣、法隆寺や四天王寺建立などの業績を残したとされる。しかし、実在を否定する説は、厩戸皇子は存在したが、大きな政治力を持っていたわけではなく、太子は奈良時代に藤原不比等らによって「日本書紀」で創作された聖人とし、論争を呼んだ。
中之島香雪美術館(大阪市北区)では、所蔵する掛け軸「聖徳太子像」(重要文化財)と「聖徳太子絵伝」の修理完了を記念した「聖徳太子 時空をつなぐものがたり」展を開催中だ。
修理過程をパネルで詳細に説明し、文化財を守り伝えていく作業の意味や重要性も再確認できる。
太子は没後、救世観音の化身などと敬われ、その生涯や伝説が絵画や彫刻で数多く表現された。今回、会場入り口にあるのは、鎌倉時代の「南無仏(なむぶつ)太子像」。2歳の春、東方を向いて合掌し、「南無仏」ととなえたという幼い姿をかたどった木彫の像で、愛らしさと尊さが同居する。
重文の肖像画「聖徳太子像」は、16歳のとき、用明天皇の病が癒えるよう柄香炉(えごうろ)で香をたき祈る、りりしい少年の姿。一方、「聖徳太子絵伝」は全9幅と考えられるが、同館が所蔵するのは3幅。ほぼ同じ図様の太子絵伝9幅が愛知県の本證寺に伝わっており、今回、両者の一部を見比べられる展示もある。画面構成などはほぼ同じだが、細部描写が異なる部分も見られ、同館の大島幸代学芸員は「同じ時期、同じ工房で制作された可能性がある」と指摘する。
太子絵伝には、さまざまなエピソードが時系列で描写され、「現代の漫画のような魅力もある。細部の絵柄や物語を楽しんでもらえたら」と大島学芸員はアピールする。
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香雪美術館(神戸市東灘区)の「古(いにしえ)に憧れて」展のテーマは、聖徳太子と聖武天皇。東大寺建立など、仏教発展に寄与した聖武天皇は太子の教えを受け継ぎ、太子の生まれ変わりとも見なされた。本展では、2人にまつわる作品とともに、古代に思いをはせ、明治時代に作られた作品など約40点を紹介している。
両展はいずれも12月13日まで。月曜休館。「聖徳太子」展は1200円ほか。中之島香雪美術館TEL06・6210・3766▽「古に憧れて」展は800円。香雪美術館TEL078・841・0652









