住民が1世帯だけとなった兵庫県佐用町の若州(わかす)集落で、地区一帯をまるごと「グランピング」拠点に生まれ変わらせる試みが進んでいる。長らく空き家になっていた山あいの古民家6棟を一斉に改修し、宿泊施設などに再生。12月中旬にオープンする予定で、プロジェクトを手掛ける事業者は「集落ならではの一体感を生かし、自然に囲まれた時間を楽しめる空間にしたい」と意気込む。(勝浦美香)
中国自動車道の佐用インターチェンジから北西へ約15キロの若州集落。野鳥のさえずりが心地良く響き、川沿いには古民家が立ち並ぶ。旧4町が合併した2005年には7世帯が暮らしたが、高齢化などで次々に減り、08年にはいったん無人の廃村状態に。現在の1世帯は、その後に入った移住者だ。
事業に挑むのは、ともに神戸市内で元教師だった大野篤史さん(41)と大西猛さん(37)。採用同期の2人は古民家や田舎暮らしへの関心が共通することもあり、そろって転身を決めた。18年に共同で会社を設立し、兵庫県神河町で古民家1棟を宿泊施設に改修。「グランピング」と「古民家」を掛け合わせ、「グラミンカ」の名称で開業した。
すると、想定外の交流が生まれた。地域からお裾分けが届いたり、果物の収穫体験に招かれたりと、田舎ならではの体験ができる施設に発展。この経験を踏まえ、佐用町では集落のまるごと再生を企画した。
隣り合う6棟の空き物件を買い取り今春、工事に取り掛かった。大野さんらの知り合いをたどり、全国から集まった五つの建築家チームが施工を担当。半年近く住み込み、シェアハウスと田舎暮らしを楽しみながら作業を続けた。インターンシップとして手伝う学生も会員制交流サイト(SNS)で募集し、完成までに延べ約120人が携わった。
宿泊棟として完成したのは4棟。いずれも開放的な大きな窓とバーベキューこんろを備え、グランピング気分を盛り上げる。寝室やリビングの中には、岩場や繭をモチーフにデザインした独創的な部屋も。施工チームの個性がにじみ、SNS映えのスポットとしても人気を集めそうだ。
残る2棟はスタッフが常駐する本部棟と、交流を目的とするコミュニケーション棟として活用する。若州集落出身で、通勤の利便性から約35年前に転居した女性(65)=佐用町=は「まさかこんなふうに変わるとは」と驚き、観光客の増加を期待する。
各棟とも施設利用料(2万6千円)と、宿泊人数に応じたサービス料(1人7千円から)が必要。グラミンカSAYO TEL0790・71・0729