兵庫県内で伝統的に続く祭りや地域に根付いた行事4465件のうち、453件がすでに廃絶し、205件が存続危機の状態であることが県教育委員会の調査で分かった。存続状況を把握できないものも3割を超える。担い手の高齢化と生活様式の変化が主な要因だが、県教委は消えゆく伝統文化を守ろうと、従来の指定制度に加えて本年度中に登録制度を創設し、財政支援の対象を広げる。(斉藤絵美)
調査は2017~19年度、県内市町の協力を得て実施した。存続状況を、盛ん▽ほぼ順調▽存続危機▽廃絶-の4段階に分けたところ、349件が「盛ん」、1813件が「ほぼ順調」だった。状況が分からないものも1645件に上った。
豊岡市竹野町小丸地区で古くから続く「どんど」(縁起物などを焼く火祭り)は、「存続危機」と判定された。半世紀ほど前、30世帯ほどが暮らしていたが、今は十数世帯に減った。高齢世帯が多く、年末と年始、節分前後の計4回だった行事を、今年から年末と年始のみにする。区長の井垣和日己(かずひこ)さん(69)は「生まれた時からずっとあった行事。続けたいけれど労力が持たない」と話す。
こうした無形民俗文化財については、国や県、市町が指定制度を設け、施設の修理や用具の新調、伝承者養成などに補助金を出すなどして保護してきた。しかし、指定には学術的な評価が求められ、県内では「阿万の風流大踊小踊」(南あわじ市、国指定)や、「松原八幡神社秋季例祭風流」(姫路市、県指定)など地域を代表するような祭りや行事に限られている。
登録制度では、指定から漏れた伝統文化も保護できるように財政支援していくという。県教委は近く条例改正し、21年度から登録を始める。文化庁によると、無形民俗文化財の登録制度は市町村では例があるが、都道府県では京都府に続く2例目。
県教委の担当者は「続けたいという意志のある地域には、行政として何らかのお手伝いをしたい」と話している。
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■映像資料分析、大学も協力/担い手育成方法探る
無形民俗文化財を保存し活用していくため、専門的な知見から協力を仰ごうと、兵庫県教育委員会は2020年11月、園田学園女子大(同県尼崎市)と協定を結んだ。同大人間教育学部の大江篤教授(59)=民俗学=が中心となり、県立歴史博物館(姫路市)に保管されている映像資料などを活用しながら現状を調べ、担い手をどう育成するかについても考える。
無形の民俗文化財は生活に息づいているだけに、「正月や盆の行事などそこで暮らしている人にとっては当たり前すぎて、価値を見いだせていないものはたくさんある」と大江教授。一方、新型コロナウイルスで地域行事の中止が相次いでおり、文化庁の担当者は「これを機に消滅してしまうケースもあるのでは」と危惧する。
大江教授は「限界集落が廃村していくように、地域の文化が消えていくのは世の常で仕方がないこと」としながらも、「記録していかなければ何もなかったことになる。われわれの世代が記録として残していく必要もある」と話す。
