創業100年を超える老舗で、大勢の政界・芸能界関係者も訪れた料亭「松廼家」が神戸・三宮から北野の異人館街に移転し、兵庫「五国」の食と文化を発信する拠点づくりに挑んでいる。築110年以上で神戸市の伝統的建造物にも指定されている建物を利用。外国文化の色濃い観光名所の中で、自慢の懐石料理と伝統芸能鑑賞などの行事を開き、和文化の魅力再掘を目指す。(津谷治英)
新しく店を構えたのは、1907(明治40)年に貿易商・大林保吉の住居として建てられた2階建て建物。外観は和洋折衷で、和風部分は日本庭園も備える。異人館が立ち並ぶ観光街の中にある。もともとは国鉄の寮で、JR西日本がゲストハウスとして利用していた。
450平方メートルのうち建築部の200平方メートルを使う。1階は料亭、2階はランチ営業と文化紹介の場とする。日本庭園に面した格調高い客室には静かなクラシック音楽のBGMも流れ、外国文化の濃い街に溶け込む。
これまでなかった調理設備を整え、料理は県内各地の食材を使った和風懐石などを提供する。毎月、文化行事を企画し、地元の伝統芸能紹介、著名人の講話を計画している。
昨年12月に開店し、年末には国指定重要無形民俗文化財・淡路人形浄瑠璃の公演を開き、家族連れらが間近で、伝統の技を鑑賞。タイのカルパッチョや、淡路牛とタマネギのすき鍋などが並び、文化、食の両面で淡路島の豊かさを堪能した。
4代目おかみの鵜殿麻里絵さんは「外国人が多い街での再出発。和風料理にフレンチの味を生かし、異文化交流の雰囲気も味わってほしい」とする。
また、新型コロナ禍で観光産業が打撃を受けていることに触れ、「兵庫には食、芸能など多彩な文化があるが、伝える機会が減っている。ここでそのよさを伝え、移動が自由になった時に行ってみたいと思ってもらえれば」と話していた。
松廼家は17(大正6)年に神戸・花隈に数寄屋造りの日本料亭として創業。俳優石原裕次郎、作家川端康成ら著名人らにも愛されたという。阪神・淡路大震災で被災後、2020年春まで三宮の神戸交通センタービル内で懐石レストランとして営業していた。
有効利用を考えるJR西と、創業時の純和風に立ち返りたいと考える松廼家と狙いが一致。両者の共同事業とし、しばらく文化発信の実証実験を経て、将来の運営を探っていく。
月曜定休。ランチ2500円など。松廼家TEL078・862・6077
