神戸市出身で2015年に亡くなった作家、陳舜臣さんの生涯を概観する「没後六年桃源忌特別展」が神戸華僑歴史博物館(神戸市中央区海岸通3)で開かれている。作品に描かれた戦前の神戸や、中国各地を旅した足跡を、パネル展示などで紹介している。
陳さんは1924年、台湾出身の貿易商の次男として現在の神戸市中央区で生まれた。会場には陳さんが少年期を過ごした35年前後の元町・海岸通周辺の地図を展示。自伝エッセー「道半ば」や、戦前の神戸を描いた小説「残糸の曲」の記述と比較でき、作品の中の倉庫や商店などは、実際の位置を正確に反映していることが分かる。
六甲山系の再度山に1029回登った記録など、趣味だった登山にも触れる。家業を一時的に継いでいた55年、同業者らと映画や登山などの「趣味の会」に入っていたことを示す名簿も並ぶ。
太平洋戦争の終結とともに国籍が日本から中国に移り、89年の天安門事件後、再び日本国籍を取得した陳さん。72年の日中国交回復以降、精力的に中国や台湾の都市を訪れた。展示される地図上には、訪問した約50都市が示される。
展示に携わった同館運営委員の橘雄三さん(78)=兵庫県明石市=は「陳さんは異質な者同士が互いを受け入れ、共存する世界を目指していた。その思想を展示からくみ取り、あらためて作品に親しんでほしい」と話している。
特別展は2月20日まで。大人300円。開館は水-土曜と同14日。午前10時~午後5時。同館TEL078・331・3855
(井原尚基)