兵庫県豊岡市から始まったコウノトリ野生復帰の取り組みが進み、野外で暮らすコウノトリは昨年6月に200羽を超えるなど増え続ける中、けがをして救護される事例も全国各地に広がっている。兵庫県内でも今年1月、但馬以外では初めて稲美町で1羽が保護された。人工物でけがをするケースも目立ち、防ぐには住民や各界の協力が不可欠だがなかなか進まない。鳥と人との共生に対する理解の深め方が、課題となっている。(阿部江利)
1月21日、清掃などで水を抜いていた稲美町のため池で、左脚を失い立てなくなっていた雌1羽が保護された。2020年春に豊岡市内で生まれた若鳥だ。同市で指先をけがしたことが確認された後、徳島県鳴門市で左脚の下半分が壊死(えし)したが、各地を転々とし、捕獲できない状況が続いていた。兵庫県立コウノトリの郷(さと)公園(豊岡市祥雲寺)で治療を受け、現在は片脚で立ち上がれるまでに回復している。
◆近隣府県でも
日本国内にいた野生のコウノトリは1971年に野外で絶滅したため、現在の野外コウノトリは、飼育されて2005年から外に放たれた鳥とその子孫となる。全47都道府県で飛来が確認され、繁殖地も兵庫を含め7府県に広がった。
同公園の獣医師松本令以(れい)さん(45)によると、05年の放鳥当初から救護や死骸回収の例はあったが、野外で暮らす数が100羽を超えた17年ごろから特に増加したという。
05~20年に救護または死骸が回収されたコウノトリは全国で延べ147羽。このうち兵庫県内は89羽で、その大部分の86羽が豊岡市内だ。残る3羽は養父市の救護2羽、丹波市の死骸回収1羽。他府県で多いのは京都府(23羽)や島根県(9羽)、徳島県(7羽)だった。
◆状況改善されず
松本さんの調査では、救護や回収の原因の4~7割は、配電設備や防獣ネットなど人の活動に起因している可能性が高いという。ネットに絡まって動けなくなった事例や、ぴんと張られた電線に衝突して翼や脚を骨折したとみられるケースも後を絶たない。
20年春には全国で28ペアが産卵したが、このうち少なくとも15ペアには、過去に何らかの形で救護された経験があるという。松本さんは「負傷したコウノトリを助けて野外に返しても、けがの原因となる状況が改善されていなければ、きりがない」と指摘するが、人の営みを止めるのは難しく、事故防止への取り組みは進みにくいのが現状だ。
野外のコウノトリは昨年末時点で220羽。松本さんは「電線に衝突したりする鳥を減らせていれば、野外の数はもっと増えていたはず。数や生息場所の増加だけでなく、コウノトリと共生できる地域づくりへの理解や取り組みが広まってほしい」と話している。
■特別天然記念物、法律で保護規定
野外で暮らすコウノトリが、野生動物なのに救護されたり「見学は150メートル以上離れて」などのルールで守られたりしているのは、国の特別天然記念物として文化財保護法で守られているからだ。希少動物なので、「種の保存法」という法律でも保護され、治療のための移動など生息環境を変える行為も規制されている。
兵庫県文化財課によると、天然記念物は「人がなるべく介入しないように」という考え方で守られているが、傷ついた場合には連絡などで住民に協力してもらう必要がある。また、鳥が驚いてけがをすることがないよう、県立コウノトリの郷公園などは、人や車、小型無人機「ドローン」なども接近しないように呼び掛けている。
けがをしたコウノトリや死骸を住民が見つけた場合、市町村の文化財や野生生物の担当部局に連絡してもらえば、各市町村がその後の対応を担うことになっている。
同公園の江崎保男園長は、「野生復帰には地域の理解が不可欠。まずは各自治体に対応してほしい」と話す。救護のケースが増える中、同公園は、けがをした鳥への対応や住民への呼び掛けをまとめたパンフレットを、より詳しいものに刷新中だ。
