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東京都世田谷区(コウケンテツさん提供)
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東京都世田谷区(コウケンテツさん提供)
ユーチューブ公式チャンネルの撮影風景(コウケンテツさん提供)
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ユーチューブ公式チャンネルの撮影風景(コウケンテツさん提供)

 コロナ禍で家にいる時間が長くなると、家族のために1日3食、誰かが食事を用意しないといけない。雑誌やテレビの情報番組、インターネットでは「時短」「技いらずでおいしく」とうたったレシピが人気を呼ぶ。とはいえ、毎日のこととなると負担は大きく、それを一人で引き受ける女性たちから「一日中、ごはん作りのことを考えている」と、半ばあきらめともとれる愚痴がこぼれる。家事分担が進まないと嘆いていたところに、聞こえてきたのが「僕だって、作りたくない日があります」という料理研究家のコウケンテツさん(46)の意外や意外のホンネ。そうした思いをつづった初のエッセー集が話題という。料理のプロでもそうなのですか?? 詳しく聞いてみた。(片岡達美)

 -「本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ」(ぴあ株式会社刊)というエッセーのタイトルには驚かされました。でも、共感も覚えました。

 「講演に呼ばれる機会が増え、主に家庭料理の大切さについて話してきました。子どもの心と体の成長には、あなたの手料理が重要なのだと。あるとき、話し終わった後に一人の女性が手を挙げ、こう打ち明けてくれたのです。『毎日、料理するのが負担でつらい』と。以前にも講演を聴いてくれた人で、料理に苦手意識があるのだけれど、頑張ってきたそうです。僕の話が彼女を追い詰めていたんですね。思ってもみないことでした」

 「自分自身を振り返ってみると、3人の子どもの育児と家事に追われながら、仕事として毎日、新しいレシピを考えている。家族のために作るときは、妻と分担していますが、料理研究家なのだからおいしく、見た目も栄養のバランスもよく、品数も多く…と、いつの間にか自分で自分を追い詰めていました。家庭料理のプロとして、料理を負担に思う気持ちがスッと軽くなるような活動ができないか。そんな思いが執筆のきっかけでした」

 -家族の形の変化と、このところのステイホームが、そうした潜在的不満をあらわにしたように見えます。

 「お父さんは外で働き、お母さんは専業主婦、子どもは勉強を頑張っていい大学を目指す。かつての日本の家族に確固としてあったモデルが揺らいでいます。就労形態も家族構成も複雑になり、みなが同じ理想に向かうことはできない。食卓への向き合い方も家族ごとに変わってくるはずですが、料理がしんどいという思いは、どうも共通のようです」

 「梅の季節には『梅干しを作りませんか』、また『みそも手作りしてみませんか』と、家庭料理の専門家として信じて提案してきたことが、負担に思わせることにつながっていたのかも、と反省しています」

 -ご自身はどういう経緯で料理の道に?

 「学生時代はテニスに明け暮れ、高校生のときには神戸のJR新長田駅前にあったテニススクールに通っていました。一方で当時から、三宮の小さなイタリアンや大阪のカフェ、パン屋などでアルバイトをしていて、和食の店では、だしの取り方を見よう見まねで覚えました。そのあたりに原点があるのかもしれません」

 「20歳の頃、料理家として仕事を始めた母のアシスタントになりました。その後、生活情報雑誌の『オレンジページ』から連載依頼を受けたのをきっかけに、2005年に独立して、大阪から東京へ拠点を移しました。当時はまだ“男性”料理研究家と呼ばれていました。ケンタロウさんらが大活躍されていたけれど、家庭料理は女性が作るもの、といった考えが根強くて。求められたのは男性目線の『男性が喜ぶ料理』。そうした固定観念がこの頃、ようやくなくなってきたと、身を持って実感しています」

 -お話からは、男だから、女だからという性別役割分担意識が感じられませんね。

 「父の影響かもしれません。彼は韓国で軍隊経験があり、料理や裁縫など身の回りのことを完璧にこなせるのに、結婚した途端、家事を全くやらなくなった。宝の持ち腐れです。家のことは女性の仕事という考え方に、幼い頃から違和感を持っていました」

 「テレビ番組で各国の家庭料理を取材したのもいい経験でした。特にヨーロッパでは、男性が料理するのは当たり前。料理が苦手でもテーブルセッティングや後片付けなど、なにがしかの形でかかわります。座って料理ができるのを待ち、食べ終わっても何もせずソファでくつろぐ、そんなのありえないよね! という考えです。あるドイツの家庭では、妻の作業が終わる端から夫が料理道具を洗って、片付けていた。ごく自然で、とても新鮮でした」

 -家庭料理の位置づけも日本と違います。

 「18年、パリに取材に行ったとき、ウイークデーは料理をしないという家庭が多くて驚きました。朝はパンとカフェオレやシリアル。夜は買ってきた総菜を並べるだけ、というのが一般的。フランスでは、25~50歳の女性の就業率が8割以上と言われていて、社会活動に携わる人も多く、一から料理をする時間がないのかもしれません。それでは栄養バランスが心配では? と、ある女性に尋ねると『料理ばかりしていたら私の心が輝かない』と返ってきました。家族や周りの人、社会が輝くために、まず自分が幸せになる。衝撃でした。と同時に、日本の女性は食事作りに頑張り過ぎなのだと。しんどいときは、無理をして手料理をしなくてもいいのだと思ったのです」

 -家庭料理は手作りで、といったさまざまな呪縛から逃れるために、どうすればいいのでしょう。

 「まず、しんどい思いを言葉にして、パートナーや家族と共有することでしょうか。誰かの犠牲の上に成り立つ食卓なんて絶対によくない。相手のしんどさを想像し、共感する。これは家庭内に限ったことではなく、組織や社会、国家同士、異なる民族間でも当てはまるのでは。少なくとも家庭内では、コロナ禍によって共感し合える機会が増えたと、前向きにとらえたいですね」

 コロナ禍を機に、新たな試みにも挑戦されていますね。

 -「週3回、動画投稿サイト『ユーチューブ』で新レシピを公開しています。毎回、レシピについての感想や日頃の料理作りで思うことなど、たくさんの書き込みがあり、励みになります。一方通行になる本やテレビと違い、レシピに沿って料理を作ってくださった方々とのダイレクトのやりとりに、手応えを感じています。日頃の食事作りを頑張って担っている人には、何の問題もない。『食べるだけの人』が問題なのです。その人たちの意識をどうにかして変えることができないか。今、作戦を練っているところです」

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【こう・けんてつ】1974年大阪市生まれ。旬の素材を生かした手軽でおいしい家庭料理を提案する。2020年3月に開設したユーチューブ公式チャンネル「Koh Kentetsu Kitchen」は登録者数68万人を突破(2月26日現在)。インスタグラムでも発信を続ける。

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【ひとこと】手料理に愛を感じる、というのは夫が妻に押しつけた幻想では? 無理して手作りしている女性も実は自分に酔っているだけかも。「こうでなければ」という固定観念は捨て、自分が楽しめる料理にトライしたい。

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