神戸製鋼所が神戸市灘区で進める石炭火力発電所の増設を巡り、国の環境影響評価(環境アセスメント)の手続きが違法として、周辺住民ら12人がアセスを認めた経済産業相の通知を取り消すよう求めた行政訴訟の判決が15日、大阪地裁である。石炭火力発電は二酸化炭素(CO2)の排出源で、弁護団によると、アセスを追及する訴訟は全国初。CO2排出削減が世界の課題となる中、司法判断が注目される。(村上晃宏・前川茂之)
石炭火力発電所増設地は住宅地に近く、神鋼は既設2基に2基を加えて、2022年度までの営業運転開始を目指す。
訴状によると、増設される2基(総出力130万キロワット)が出すCO2は年間692万トンで、一般家庭150万世帯分に相当。原告住民は、硫黄酸化物や窒素酸化物により微小粒子状物質「PM2・5」が生成、拡散されると主張している。
原告は、アセスはPM2・5の影響が対象外で評価されていないとも批判。専門家に依頼した独自調査で、PM2・5の拡散によって「主に兵庫県と大阪府で年間の死亡者が52人増える」と訴える。また環境相の意見書は、経産省が事前に表現の修正や削除を求めており「アセスを骨抜きにした」と批判する。
こうした経産省の“横やり”について、被告の国は「情報提供、コメントとして位置付けられる」として違法性はないと反論。また確定通知を出した当時、PM2・5の拡散などを予測する科学的知見は十分でなかったとし、「(神鋼は)できる限り環境負荷の低減や回避の措置を講じようとしていた」と指摘する。
さらに国側は、周辺住民に行政訴訟を起こす「原告適格」がないと主張。「アセスは環境保全という公益保護の審査で、住民の生命や健康を直接的に保護する目的はない」とし、異議を申し立てる資格がない「却下」の判決を求めている。
住民側弁護団の池田直樹弁護士は「裁判所は門前払いの『却下』をせず、アセスの妥当性を判断してほしい」と話す。
■パリ協定との整合性は?
温室効果ガス削減を目指す国際枠組み「パリ協定」を批准する日本が、なぜ石炭火力発電の新設を是認するのか-。神戸製鋼所の石炭火力発電を巡る行政訴訟で、原告側は地球温暖化対策の国際的目標と、国の政策との整合性も問うた。
パリ協定は、気温の上昇を産業革命前より1.5度に抑える努力を追求すると明記。日本は2016年に批准し、菅義偉首相も50年までに温室効果ガスを実質ゼロにすると表明した。
石炭火力発電は温室効果ガスの排出が多く、世界的に廃止される流れが強まる。しかし、資源の少ない日本では重要なエネルギー源とされ、国内で消費される1次エネルギーの約4分の1を占める。昨年12月には北海道釧路市で新たな発電所が稼働。菅首相のお膝元、神奈川県の横須賀市でも発電所の建設工事が進む。
原告側はこれに加え、今回の神鋼発電所が30年後も稼働すれば、50年までの目標達成は困難と主張。現行のアセスメント手続きはパリ協定と整合せず、審査が不十分で違法だと訴える。
一方、国は「温室効果ガスの削減目標は国全体の目標値で、個別の目安を定めたものではない」と強調。国の指針を示した上で、事業者の自主的な取り組みに委ねることなどで、パリ協定との整合性は取れるはずと反論している。
