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前川直哉さん=神戸市中央区(撮影・秋山亮太)
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前川直哉さん=神戸市中央区(撮影・秋山亮太)
前川直哉さんが福島大学の授業「むらの大学」で取り組む被災地フィールドワーク=福島県南相馬市(前川直哉さん提供)
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前川直哉さんが福島大学の授業「むらの大学」で取り組む被災地フィールドワーク=福島県南相馬市(前川直哉さん提供)

 東日本大震災、東京電力福島第1原発事故から10年が過ぎた福島県では、今も3万人近い住民が県外へ避難したままだ。まだ居住できない区域があり、国の避難指示が解除された地域でも住民の帰郷が進んでいない。一方で福島に暮らす住民の力になろうと、県外から被災地に飛び込む人たちがいる。高校生の学習を支援する「ふくしま学びのネットワーク」を設立した灘高(神戸市東灘区)の元教師、前川直哉さん(44)も、その一人。「誰かを支える側になりたい」と考える高校生たちの気持ちに触れたからだという。地域再生の担い手としての力を養ってほしいと願い、そのための「新たな学び」に取り組む前川さん。ゆっくり話を聞きたくなった。(段 貴則)

 -福島と向き合うきっかけについて教えてください。

 「東日本大震災後、灘高の同僚や生徒たちと被災地を訪ねました。原発事故があった福島では、灘高OBの医師が震災直後から内部被ばくの検査を続けていました。本当に大変なはずですが、『こういうときのために勉強してきた』と、サラッと口にするんです。かっこいい大人だと思いました。一方、地元の高校生たちと接すると、震災後に多くのボランティアらに支えられたことを知り、『これからは支える側に回りたい』と話していた。学びや勉強に限らず、自分が努力をして力を付けることで、いつか誰かの役に立つんだという強い思いを、福島の子どもたちから感じました」

 -それにしても、なぜ仕事を辞めてまで?

 「私も高校生の時、阪神・淡路大震災を経験しました。1月17日から国公立大の2次試験対策の授業が始まる予定でした。尼崎市の実家は揺れましたが、家族は無事だった。ただ、高校周辺は被害がひどく、学校は避難所になり、授業どころではなかった。そんなときです。先生たちが『形あるものは壊れるが、人が伝えたことや学んだことは壊れない』と言葉をかけてくれた。なるほど、と思いました」

 「思い返すと、先生の言葉で『学びのバトン』を受け取った気がします。私も母校で教員となり、バトンを教え子に渡す仕事に就きました。そこに東日本大震災が起きた。宮城や岩手に比べ、原発事故があった福島には県外からの教育支援が少なかった。それで教育なら役に立てるかもしれないと考え、退職して福島に移りました。学びのバトンを福島でもつなごう、と。私自身、阪神・淡路後、多くの人にお世話になった。温かくしてもらい、ありがたいと思うと同時に、きれいな言葉で言えば『恩返しをしたい』ですが、世話になりっぱなしは居心地が悪い、今後は誰かを支える側になりたいと感じていましたから」

 -なるほど。

 「教え子や福島の子どもたちに、誰かが引いたレールに乗らず生きていくこともできる、と身をもって示したかったという気持ちもありました。進学校の生徒にとって、大学を出て官僚や医師、大企業の会社員になることが世間的にレールとみなされ、多くの生徒がそれないように、こわごわ走っていく。もちろん、そういう生き方もいい。だけど、レールから外れれば、また違う景色も見えると伝えたかったんですね」

 -「ふくしま学びのネットワーク」とは、どんな団体ですか。

 「誰かを支える側になりたいと思う、高校生の学びを支援する団体です。例えば、予備校のカリスマ講師たちが毎回、手弁当で授業するセミナーを開いています。受講する生徒には『自分が学んで力を付け、何かとがった部分を持っていないと、誰かの力にはなれない』と言っています。ボランティアの講師の中には、全国の高校で使われる英単語帳『ユメタン』シリーズの著者として知られる灘高の木村達哉先生もいますよ。木村先生は職員室で隣の席だったので、よく知っています。授業で教えるのが本当にうまい。私も『この先生に教わったら、人生が変わったやろうな』と思っていました」

 -なぜ、人は学ぶのでしょう。

 「やはり自分が学ぶことで、社会を少しでもよくできる、困っている人の助けになるからではないでしょうか。誰かの笑顔や幸せを増やすことにもなります。ちゃんと勉強、努力をしないと、誰も幸せにできない。学生の間は、勉強をしてもどこにつながっているか見えづらいですけどね。将来、誰かを笑顔にし、社会をよくすることに役立てる自分になる。そういう姿を、大人がもっと示すべきでしょう」

 -高校生グループが、自分たちの社会貢献活動について発表するコンテストを開いていますね。

 「活動を通じた学びです。私は主体的な課題発見、解決型の教育こそ、これから必要な学びだと思っています。ようやく教育委員会の協力も得て定着してきましたが、最初は冷たい目で見られた。学び、勉強は試験勉強を指すと捉えられてしまうからです。従来の学校教育だけではなく、自分が課題を見つけ、白黒付けられない、正解がない課題に対し、よりましな解決策を探ることが大事です。その意味で震災、原発事故が起きた福島は、ほかの都道府県より課題が多いと言えます。復興の過程を教材にして、高校生自ら課題に取り組む教育は、福島だからこそできると思います」

 -震災を知らない世代が今後、増えていきます。どう向き合いますか。

 「震災の伝承は、阪神・淡路後の被災地でもテーマになりました。私は楽観しています。土地に刻まれた記憶は大人たちが、地域のメディアが伝え続ける。それを、子どもたちは受け取るのですから、急速に風化していくとは思いません。福島の課題は現在進行形です。今も原発事故で人が住めない場所があります。避難指示が解除されても人が戻ってこない。答えのない状況の中で、それでも諦めない大人たちが福島にはいます。みんな、ふるさとを子どもたちに残そうと必死で取り組んでいるのです」

 「灘高生は毎年2~3回、福島に来て、たくさんの人の話を聞き、関西にいては分からない今の福島を学びます。同時に、福島で踏ん張るかっこいい大人たちの話を聞くことで、自分たちが何のために学ぶのかも見えてくるはずです」

     ◇     ◇

【まえかわ・なおや】1977年尼崎市生まれ。2014年、母校・灘高の教員を退職し、福島県に「ふくしま学びのネットワーク」を設立。理事・事務局長を務める。福島大学特任准教授。福島市在住。

     ◇     ◇

【むらの大学】福島大学の地域実践特修プログラム(ふくしま未来学)の中心科目。原発事故で避難を余儀なくされた地域を繰り返し訪れ、住民との交流やフィールドワーク、課題解決に向けた活動に取り組む。

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