地場産業の淡路瓦で、通常より見た目が黒い「黒いぶし」が、海外でじわじわ売れ始めた。製造コストが高くつき、国内ではなじみが薄い「変わり種」だが、東アジアや東南アジアで評価され、カナダなどの寒冷地にも適しているという。いったいなぜ?(西竹唯太朗)
淡路瓦の主力は鈍い銀色に輝くいぶし瓦で、日本三大瓦に数えられる。黒いぶしを屋外で並べ比べると、名前の通りいぶし瓦よりも黒く、水をかけるとさらに違いははっきりする。
「かなり昔から技術的に作ることはできたが、コストが高く、需要もないだろうと見ていた。売り上げの柱としては全く考えていなかった」。瓦製作会社、栄和瓦産業(兵庫県南あわじ市松帆慶野)の濱口健一社長(48)は意外そうに言った。
いぶし瓦は約千度の窯で焼き上げるが、黒いぶしはさらに約80度高温にする。終盤に窯を少し開け空気を入れることで瓦の表面を新鮮な空気ごと焼き、炭化を進めて黒色を醸す。ガス代がかさみ、空気を入れる工程に人手がかかるため、手を出す会社はなかった。
転機は2013年、輸出を支援する国の補助事業として、アジア地域で国際展示会などに出品したこと。海外の設計士らの注目を集めた。濱口社長は「雨などでぬれると、黒色がより深くなるところが、アジアの寺院で受けた」と明かす。
強みはもう一つある。瓦に含まれる炭素量が多いことで水分が浸透しにくく、凍結に強い。そのため中国内陸部やカナダなど世界の寒冷地にも向いている。
業界団体の淡路瓦工業組合によると、05年にほとんどなかった海外販売比率が19年は約4%に増え、黒いぶしが貢献。台湾との取引が最多で、中国、フィリピンと続く。寺院のほか、富裕層の邸宅向けもある。
同組合はかつて、淡路島内全域から100社以上が加盟していた。しかし、洋風建築の増加や、金属製など新しい屋根材の台頭に伴って需要が減り、現在の加盟は南あわじ市内の66社。軽量化し留め具で落ちにくくした防災瓦や、アートを取り入れた庭資材を開発するなど販路拡大に懸命だ。
同組合の竹澤英明専務理事(65)は「需要増の起爆剤になってくれれば。400年の伝統を守るため試行錯誤を続けたい」と話す。
■25年大阪万博へ猛アピール
地場産業を海外に売り込む動きは2000年代に入って活発化した。背景に国内需要の減少があり、ブランド力を上げる努力が続く。25年の大阪・関西万博には、国内にいながら外国人に売り込める機会として期待が集まる。
淡路瓦「黒いぶし」がアジアに出るきっかけになったのは国の「JAPANブランド育成支援事業」だ。全国の地場産業に外国での営業活動費や展示会への出展費などを補助。淡路島特産の線香もフランスの展示会などで知名度を高めた。
兵庫県も力を入れ、20年度に1件500万円を上限に補助金制度を導入した。豊岡カバンや、日本酒、神戸の真珠加工など4産業が対象になっている。
25年万博は地場産品のPRも目指し、淡路瓦の関係者は会場施設への採用を期待する。地場産業振興を担当する県工業振興課は「輸出を売り上げの柱にするには時間も必要。展示会への出品など地道なブランド力向上を後押ししたい」とする。









