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冊子を手にする大森重美さん(右)と松本邦夫さん=22日午後、神戸市中央区橘通1(撮影・秋山亮太)
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冊子を手にする大森重美さん(右)と松本邦夫さん=22日午後、神戸市中央区橘通1(撮影・秋山亮太)

 尼崎JR脱線事故の発生から25日で16年を迎えるのに合わせ、遺族らが、重大事故を起こした企業の刑事責任を問う「組織罰」の必要性を訴える冊子を刊行する。長女早織さん=当時(23)=を亡くした大森重美さん(72)=神戸市北区=は「娘の死を無駄にしたくない」と組織罰創設を求めて立ち上がった経緯をつづった。完成した冊子を手に「多くの人に関心を持ってほしい」と願う。(石沢菜々子)

 「組織罰はなぜ必要か」と題した冊子は、大森さんらが2016年に発足させた「組織罰を実現する会」が編集。事故の遺族や弁護士、大学教授の計11人が寄稿した。

 会の代表を務める大森さんは、脱線事故を巡る裁判を傍聴し、組織罰の必要性を痛感した。日本の刑法は個人を対象とし、組織を処罰できない。JR西日本の歴代社長計4人が刑事裁判で罪に問われたが、いずれも無罪が確定した。

 「100人以上が亡くなった事故にもかかわらず、組織としての法的な責任を誰にも取らせることができない。幹部の責任を問わなければ、組織の安全対策がおろそかにされる」。現行の司法制度の限界に納得できなかった。

 14年に他の遺族らと組織罰の勉強会をつくり、現在の会に発展させた。組織罰を求める署名活動やフォーラムなどを展開し、18年には署名約1万人分を国に提出した。冊子では活動を振り返るとともに、かつてゼネコンに務め、建設現場で安全管理を担った経験も踏まえて意見を記した。

 まな娘を亡くしたつらさは変わらず、妻は今も電車に乗ることができない。「二度と同じような事故が起こらないよう、粘り強く訴えていく」と大森さん。法制化を求め、関係省庁や国会議員への働き掛けを続けるつもりだ。

 同会は22日、神戸市内で会見し、大森さんや中央自動車道笹子トンネル(山梨県)の天井板崩落事故で長女を亡くした松本邦夫さん(70)=兵庫県芦屋市=らが刊行への思いを語った。長野県軽井沢町のスキーバス転落事故の遺族も手記を寄せた。

 A5判、88ページ、1320円(現代人文社)。

     ◇     ◇

■組織罰法整備議論進まず 遺族「高額罰金で事故防止を」

 日本の刑法は個人の行為を対象とし、死亡事故が起きても企業など組織の刑事責任は問えない。一方、個人として経営者らの刑事責任を立証するのは難しく、これまでの刑事裁判では無罪判決が目立つ。

 そうした状況を背景に、事故を起こした法人を直接罰する「組織罰」の法整備を求める動きが出てきた。

 「組織罰を実現する会」(西宮市)は、経営者個人の刑事責任の立証が難しい理由を「企業の活動はトップも全容を把握できないほど複雑で大規模。加害者を特定しにくい」と指摘。不正競争防止法や労働基準法といった特別法に違反した会社に罰金を科す「両罰規定」を、業務上過失致死罪に拡大するよう提唱する。

 同会は、導入の意義を「高額な罰金が企業の安全管理徹底と事故防止につながる」と説明。ただ国内で具体的議論は進んでいない。(那谷享平)

 

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