神戸市立王子動物園(神戸市灘区)には、2頭のアジアゾウがいる。雌の「ズゼ」(31歳)は阪神・淡路大震災の翌年、1996年に北欧の小国ラトビアからやってきた。母国で親しまれるあまり、神戸への“嫁入り”にラトビア市民が反発する一幕があった。そんなズゼの生い立ちを、元園長で、現地の説得に奔走した権藤眞禎(まさよし)さん(83)=同市須磨区=が絵本「ズゼちゃん大好き」にまとめて自費出版した。愛情たっぷりのタイトルで、間近で見たドラマをつづる。(井上太郎)
バルト海に面したラトビアの人口は約190万人。神戸の姉妹都市でもある首都リガ市にある国立動物園が、国内唯一の動物園だ。ズゼはそのリガ動物園で生まれ、すぐに母親が死んだため人工保育で育った。
モスクワの動物園から来た母の代わりにズゼの返還が求められた際、大勢の市民が募金活動を展開し、ズゼはリガに残った経緯があった。権藤さんは「みんなが自分の子どものようにかわいがっていた」と振り返り、王子動物園への縁談も反発は大きかった。
神戸の街並みや王子動物園を紹介する映像を作って現地のテレビ局に売り込んだという権藤さん。市長同士の手紙のやりとりもあり、「阪神・淡路の被災地で子どもたちに勇気を与えられるなら」と話がまとまると一転、リガ市民は嫁入り道具を用意し、盛大にズゼを送り出してくれた。
絵本はリガ動物園の飼育員の目線から、ズゼとの出会いと別れ、王子動物園での暮らしぶりが描かれる。権藤さんが描いた絵は全部で12枚。パステルと水彩絵の具で、ズゼの表情や支える人々、ふるさとの風景を温かいタッチで表した。
作品のベースになったのは、園長を退任後に、権藤さんが週末に園内で披露していた自作の紙芝居。数年前に出版社を通じてインターネット上で公開したのを機に「書籍として残しておきたい」と加筆修正した。
ズゼは、ペアのマックとともに健在だ。権藤さんは「今も人気者のズゼちゃんを通じて、ラトビアというすてきな国のことも知ってほしい」と願っている。
A5判50ページ。主にインターネットで販売し、税込みで990円。「関西日本ラトビア協会」を通じて全国の動物園、神戸市内の小学校や図書館にも寄贈する。CATパブリッシングTEL0742・77・6415
