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神戸新聞NEXT(米国立がん研究所提供)
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光免疫療法の研究の歩みを話す米国立衛生研究所主任研究員の小林久隆さん=西宮市奥畑、西宮震災記念碑公園(撮影・小林良多)
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 がん治療に革命をもたらすと期待される「光免疫療法」の新薬が世界に先駆けて薬事承認され、兵庫県内でも治療が始まった。2012年には当時のオバマ米大統領が一般教書演説で紹介。現在、世界各国で臨床試験が進められており、治療法開発を主導した米国立衛生研究所(NIH)主任研究員の小林久隆氏(60)は将来のノーベル賞候補とも目される。手術、放射線、抗がん剤-という既存の三大治療とまったく異なるアプローチで、光免疫という言葉には「がんを死滅させる意味と、免疫を作るという意味の二つがある」という。今年4月、西宮市の実家に一時帰国した小林氏に、治療の仕組みや開発の経緯などについて詳しく聞いてみた。(霍見真一郎)

 -光免疫療法とは、どんな治療なのですか。

 「特殊な物質(IR700)を付けた抗体を点滴し、がんの部分に近赤外光を当てるという治療です。すると、がん細胞の表面にくっついたこの物質が近赤外光を吸収して化学変化を起こし、一瞬でがん細胞を破壊します。さらに壊された細胞から出たがん特有の物質に対する免疫を活性化させることで、転移したがんを治したり、再発を防いだりします。現在、保険適用は顔や首の頭頸部がんだけですが、食道がんや胃がんに対する臨床試験も進んでいます。光免疫療法の後に外科手術もできますし、放射線や抗がん剤が効かなくなることはありません。手術、放射線、抗がん剤の三大治療に影響なく加えられる新たな治療と考えます」

 -京都大学時代には放射線科医として臨床現場で働いておられます。三大治療の課題とは何ですか。

 「がん細胞を減らすことと引き替えに、体を防御する免疫機能を著しく低下させてしまうことです。手術では、がんを取り残さないよう少し外側まで切除し、免疫をつかさどるリンパ節も取ってしまう。放射線治療では、免疫細胞が異常なほど被ばくに弱いため、がん細胞より先にどんどん死滅していってしまいます。また、抗がん剤治療では、がんを殺す毒が全身を巡るため、毛根や腸管など正常細胞がダメージを受け、脱毛や下痢などの副作用が避けられず、免疫細胞への影響も出てきます。がんを治すためと分かっていても、再発や転移を抑制する大事な免疫をあれだけたたいてしまって良いのかという疑問が、放射線科医をしていた頃からありました」

 -そもそも免疫機能があるのに、なぜがんができてしまうのですか。

 「がん細胞って、基本は自分の細胞なんですよ。抗体は、体の中のウイルスやバクテリアといった外敵にくっつく物質ですが、抗体を含む体の免疫機能は自分の細胞を原則攻撃しないよう、成長過程で『教育』されています。そのため、免疫細胞からがん細胞は見えにくいのです。乳がんなどによく効くハーセプチンという薬は、がん細胞に薬となる抗体がくっついて目印となり、免疫細胞ががん細胞に気付くという仕組みを利用しています」

■ミサイル療法の壁

 -人工的に作った抗体にがんを探させるという点が興味深いです。

 「抗体に毒を付けて運ばせ、選択的にがん細胞をたたく考え方は“ミサイル療法”と呼ばれ、1970年代からありました。がん細胞の表面には、正常細胞にはあまり見られない突起がたくさん生えているので、これに鍵と鍵穴のようにくっつく抗体に弾薬を載せて、ミサイルのように放つのです。しかし『一撃必殺』というほど毒性の強いミサイルにしてしまうと、正常細胞にもわずかに出ている突起にくっつき、がん以外の細胞がばたばた死んでいってしまう。さまざまな取り組みがなされましたが、うまくいきませんでした。若い頃には、がんとの闘いはミサイル療法ですぐ終わると思っていましたが、それほど簡単ではありませんでした」

 -ミサイル療法には自らも挑戦されてきたんですよね。

 「まず京大時代から8年ほど、放射性物質を抗体にくっつける方法を研究しました。がんに集まったもの以外の放射性物質を体の外に洗い落として、正常細胞の被ばくを軽減する方法も開発しましたが、がんに抗体が集まるまでの数日間は血液中に放射性物質を流しておかなければならず、それがネックでした。この間、放射線の影響で被ばくに弱い骨髄の機能が落ち、白血球が減るのです。米国に移ってからは抗体に毒素をくっつける方法も探りました。でも、いったん体内に入った毒素が付いた抗体は、尿などで自然に排出されず、肝不全や腎不全となってしまい、だめでした。それらの経験から抗体に付けた無毒な物質を、体外から起動させて毒にする方法を考えるようになりました。起動させない限り、毒にならずに体外に出てしまうようにする必要もありました」

 -最初に放射性物質にこだわったのはなぜですか。

 「私は放射線科医でしたので、がんだけを正確に光らせて診断し、手術支援にもなる“イメージング”を目指したんです。レントゲン写真のようにね。がんを光らせる薬と、がんを死滅させる薬は『がんだけを』という部分が同じです。抗体に付けた放射性物質でがん細胞を写真に撮ることができれば、殺傷性の強い放射線を出す物質に付け替えて、選択的に死滅させることもできるのではないかと考えました。放射性物質を諦めてからも、がんだけを光らせることと死滅させることを並べて考える視点は持ち続けました」

 「がんがよく見える、というのは星空と同じで、がん以外の部分が暗くなければなりません。治療も同様に、がん以外の正常細胞に対して無毒であればあるほど、しっかりと効果を上げることができます。抗体に付けて体に打っただけでは光を出さない物質が、がん細胞に集まった時点で体外からスイッチを入れられる仕組みは何だろう、と考えました。そしてエネルギーは大きいけど、体には無害な『近赤外光』にたどり着きました。近赤外光を吸収して毒へと変化する物質を検討し始めたのは、その頃です」

■「面白い現象」の発見

 -近赤外光との出合いは、どのようなものだったのですか。

 「2009年春のことでした。近赤外光を吸収する物質の実験を担当していた研究員の女性が、『光るんですが、がん細胞も死んじゃうんですよね』と報告してきました。私が『見ている間に死ぬのか』と聞いたら、『すぐ死んでしまう』と答えるんです。彼女は生きたがん細胞を光らせることに集中していたため、使えない物質と判断したのですが、私は、非常に短時間でがん細胞が死ぬことに興味を持ちました。実際に顕微鏡をのぞいてみると、近赤外光を当てた直後から細胞がぼわーっと膨らんで、ぽかっと壊れていくのが見えました」

 「このときは面白い現象を見つけたと思いましたが、取り出した細胞で起こっても体の中では起こらない可能性もある。また、がん細胞しかない状態だったので正常細胞が同じように死なないか、というのも確かめなくてはいけない。本当に治療までたどり着けるか、いろいろなことを確認しないといけないんですね。現象自体は追究してみたいと思いましたが、その時点では、どこまでいけるか分かりませんでした」

 -その後も研究を続けられ、2011年に米医学誌「ネイチャーメディシン」に光免疫療法の論文が掲載されます。この時点でも、なぜがん細胞が死滅するか、まだ分からなかったそうですね。

 「がんの細胞膜上で起こる化学反応の詳細が分かっていませんでした。一般的には、『光のエネルギーによって作られる活性酸素が酸化して細胞にダメージを与えて殺す』と考えられるのですが、この可能性は実験で確実に否定されていました。近赤外光のエネルギーを熱に変換して膨張させ、膜にダメージを与えているのではないか、などといくつかの仮説を立てて試していました。そんな中、ある研究者から『(抗体に付けて投与する特殊な物質が)近赤外光を受けて構造が変化する可能性がある』と指摘を受けたのです」

 -近赤外光が当たると、どういうことが起こるのでしょう。

 「抗体に付ける特殊な物質『IR700』は、東海道新幹線の青いラインに使われている塗料の主成分『フタロシアニン』が基になっています。近赤外光を吸収する物質です。すべての色が混ざった太陽光を受けて青く見えるというのは、赤系の色を吸収しているからなんです。フタロシアニンは新幹線に使われていることから分かるように、どんなに雨が吹き付けても落ちない、とてつもなく不水溶性の物質です。リングのような化学構造なのですが、体はほとんど水でできていますから、リングの上下に木の枝を生やすように二つの強い電荷を持つ物質を付け、水に溶けるようにしました。その“枝”の部分が、近赤外光を受けると切れることが分かったんです」

 -その変化が、どう細胞の死滅につながるのですか。

 「頭頸部がんにおいて、現在臨床で使われている抗体が目印にするのは、EGFRという名の突起です。この突起は、根の部分が細胞膜に深く刺さったような形をしています。そこにフタロシアニンを基にして水に溶けるようにしたIR700が、抗体に誘導されてくっつくんです。そして光によって『枝』が落ちて、不水溶性に変わると、タンパクがその周りにぎゅぎゅっと巻き付く。EGFRを皮膚から生えた毛に例えるなら、ぎゅーっと引っ張り抜くような強い力が働くわけです。すると細胞には毛を引き抜かれたような小さな傷ができます。一般的に1個のがん細胞には、数万個から数百万個のEGFRが出ていますが、そのうち1万個にIR700がくっついて引き抜けば、傷が付いた細胞膜から水が流入し、がんは確実に破壊されます。くっつく場所が良ければ、1000個程度でも破壊できるとみています」

 -さらに光免疫療法による細胞死が免疫を活性化させることになるとのことですが、その仕組みを教えてください。

 「通常、体の中で細胞が死ぬときは外の膜が壊れることはなく、本当にしわしわ、と水が抜けてミイラみたいになります。そういう形で死ぬと、中身などが出ないので、ほかの細胞は死んだことを認識しないんですよ。炎症も起こらず、抜け落ちていくような形で死んでいくんです。ところが、光免疫療法によって細胞が破裂するような形で死ぬと、細胞を構成するすべてのものが放出され、細胞が壊れたという信号が伝わって近くにいる白血球などが掃除しに来るんです。そこには、がん細胞が内側に隠し持っていたパーツが、とてもきれいな形でばらまかれています。熱や酸で壊したのではなく、ただ風船が破れるように壊れたためです。これによって免疫機能が、がん細胞のさまざまな特徴を網羅的に捉えられるようになり、少しぐらい変異を起こしても逃がさない免疫をつくることができます」

 「光免疫療法で免疫をつけると、二度と同じがんを発症することはありません。いったんがんが完治したマウスに、腫瘍を作る場合の2・5倍という致死量相当のがん細胞を入れても、腫瘍ができませんでした。また、一つの腫瘍を光免疫療法で治療すれば、ほかの場所にある腫瘍も、同じ種類であれば、獲得した免疫によって少し遅れて治癒します」

■今後の研究ビジョン

 -光免疫療法が臨床で使われる過程で、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長との出会いがありました。

 「神戸で起業している、私のいとこの紹介で2013年に初めて会いました。当時、三木谷さんはお父さんが膵臓がんを患い、治療法を探しておられました。気さくにしゃべる方でしたが、印象深いのは、がん治療に関して本当によく勉強していらっしゃったことです。素人とは思えないほど質問が鋭いのです。その直後から、臨床応用への治験に私費を投入してくれました。その後、光免疫療法の排他的なライセンスは楽天メディカルが持ち、三木谷さんは自らトップとしてリーダーシップを取ってくれています」

 -今後の課題はどのようなところにあると思いますか。

 「多くのがん患者に使ってもらえるよう、いかに早く浸透させるかだと思います。壁になるのは、認可の仕組みが体の部位によって分かれていることです。例えば今回、ターゲットにしたEGFRは頭頸部がんだけでなく、食道がんや胃がん、乳がんや子宮頸癌など、さまざまな部位にできるがん細胞に発現しています。ところが、薬事承認を得るには、それぞれのがんにおいて、それぞれの病状ごとの臨床試験が必要です。さまざまながんに活用するには、五つか六つの抗体をそろえなければならないと思いますが、そういった手続きを踏むと、いくら費用がかかるか分からないことになります。科学としては、ほとんどのがんを治療できるところまで、かなり仕上がった技術だと思うのですが、臨床現場でさまざまながんをカバーするには、まだ10年は必要かもしれません」

 -最後に、これからの目標は。

 「研究面においては、これから1、2年で光免疫療法の完成形を見せなければならないと思っています。免疫細胞には自分への攻撃を抑える制御性T細胞というのがあり、先ほど話したように、がんはこれを利用しています。がん細胞と制御性T細胞の抗体をカクテルし、光免疫療法で破壊すれば、体が獲得できる免疫力は飛躍的に上がります。制御性T細胞を破壊する抗体は、体の部位に関わらず一つでいいというのも利点です。NIHでその臨床研究を始めようと準備しています」

 「臨床面においては、現在日本で保険適用となっている患者は三大治療で効果が上がらない人に限られているため、光免疫療法の潜在能力からすれば治療成績が芳しくありません。これは、がんが進行していたり、すでに行われた治療で免疫力が低下していたりすることが影響していると思います。がんが初期であろうと末期であろうと治療できるよう、まずは研究者として完成した理論と方法を確立させることに全力を尽くします」

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